コロナ禍におけるジャニーズ『Smile Up!Project』の意義 キスマイ千賀は味覚障害の実体験をリアルタイムで伝える
ジャニーズグループが社会貢献を目的として2018年7月に立ち上げた『Smile Up!Project』。このコロナ禍において存在感を増しており、数多くの人気グループや所属タレントが、YouTubeというプラットフォームで情報発信を行ってきた。ひと昔前のジャニーズといえば、活動の範囲はほぼテレビや雑誌などのマスメディアに限定され、インターネット上で楽しめるコンテンツといえば、ファンクラブ限定サイトくらいであった。そんな彼らが今、積極的に無料で誰もが観られるYouTubeに動画を投稿し、困難の最中にある人々を支援しようとしている。日本のエンターテイメントの中心にいるジャニーズグループがこのコロナ禍で発信してきたYouTubeコンテンツの意義はどのようなものだったのか、あらためて考察していきたい。 ジャニーズグループ総勢による、歌とダンスによって手洗いの大切さを伝える動画『手洗い動画(Wash Your Hands)』は『Smile Up!Project』の活動のなかでも大きな話題を呼んだ。嵐は手洗いダンスだけでなく、「厚生労働省による正しい手の洗い方」を解説しながら5人と一緒に手を洗うという動画を発信。無邪気にも見える彼らの姿は微笑ましく、息が詰まりそうな状況の中でも、多くの人が楽しい気分で手洗いを習慣づけるきっかけとなった。 また木村拓哉は、よりプライベート感のある手洗い動画を公開。「YouTubeにキムタクが登場する」ということの珍しさ、そして「手で水をきる時のキレの良さ」や「手を拭くタオルがバスタオル」など“手洗いをしてもやっぱキムタク”という、スタイリッシュな映像が大きな話題となった。 歌やダンスを取り入れたキャッチーな動画を大々的に発信することに加え、自宅のような場所で撮影されたリアルさのある動画もプラスすることで、より手洗いを身近に、大切に感じるようになった人は増えただろう。 緊急事態宣言中には、Hey! Say! JUMP山田涼介による『~ホットケーキ作ってみた~ 』、Sexy Zone中島健人による『~おうちでできるSmileyカレー「2日目の彼」~』など料理動画や、KinKi Kids 堂本光一による『~硝子のお掃除~』の掃除動画など、“おうち時間”を充実させることをテーマとした動画が公開された。厳しい外出自粛制限によって家にずっといなければならない状況では、精神的に不安定になる人も多かったと思うが、これらの動画を視聴して「家のなかでも何かしらやってみよう、動いてみよう」と前向きになったファンは少なくなかっただろう。さらにプライベートな空間で撮影されている動画の数々は「有名芸能人もちゃんと外出を自粛しているんだ」という印象を与え、緊急事態宣言下の自宅待機を推進する模範的なコンテンツになったことは間違いない。 そしてKis-My-Ft2の千賀健永が11月15日、『Smile Up ! Project ~嗅覚障害について~ 千賀健永』と題した動画をアップした。千賀は11月8日より嗅覚に異変を感じ、同10日にPCR検査を受けたところ、新型コロナウイルスに感染していることが確認された。ジャニーズ事務所所属タレントでは、8月にHey!Say!JUMP伊野尾慧が、9月には 関ジャニ∞の大倉忠義が新型コロナウイルスに感染したと報道されていたが、療養中の様子をリアルタイムでかつ動画で発信したのは千賀が初めてだ(芸能界全体でも少ないだろう)。今回の動画で千賀は、心配するファンを安心させるだけでなく、自身が体験している“嗅覚障害”について、不便なことや感じたことなどを実際に甘いものを食べながらありのままに伝え、見過ごしがちな新型コロナウイルスの症状を周知している。 というのも、千賀自身に嗅覚障害以外の高熱・だるい・喉が痛い・咳が出るなどの症状はなく、いたって正常とのこと。嗅覚障害とは匂いがわからない、匂いの感じ方が変わってしまう状態だが、千賀は「香水を鼻の目の前についていても全く何も感じない」という。それは味覚にも影響し、「ロースカツは、歯ごたえだけ。ソースをかけなければゴムを噛んでいる感じ」と具体的に体験談を話す。さらに言葉だけでは分かりづらいだろうとして、実際にドーナツを食べながら説明した。 「(ドーナツは)甘いものの中でも王様、甘いもの界のKing&Princeですよね」とユーモアを交えながら、周りに砂糖がコーティングされているかなり甘そうなドーナツをチョイス。通常時ならば思わずブラックコーヒーがほしくなりそうなくらい甘そうな見た目だが、嗅覚障害が起こるなか、実際にどんな味がするのか。 食べる前には『もしもツアーズ』で習ったというインサート撮影を披露。ドーナツを口に運んだ千賀の第一声は、「うん!あぁ!甘い!!」といういいリアクション。だが、咀嚼を重ねるうちに「う~ん、でも悔しい」と話す。というのも、「甘いし、食感もちゃんとわかる。これがドーナツかどうかはわかる」「だけどこのドーナツはきっと試行錯誤して風味とか鼻に抜ける感じを研究されているはずで、その部分に関しては全くわからない」とのことだ。つまり、「甘い」という味の方向性はわかっても、ドーナツ特有の風味がわからず、食事をほとんど楽しむことができないようなのだ。 動画後半には、嗅覚障害を患って不便だと思うこととして、 1.食事の味が分かりづらい 2.身体能力の低下 3.記憶力の低下 4.安全性の低下 5.自分の臭さが分からない と5つあげた。特に自分の臭いがわからないことに関しては、「ずっと家にいるし気にしなくてもいいことかもだけど、意外と気になる。想像以上に不安になった」と明かした。 実際にコロナウイルスに感染した身として、「自分の病気を治すのはもちろん、まずは人に移さないことがキーになる」「早期で認識することが大事、少しでも少ない感染で抑えることの大切さを肌で感じている」と話す。動画最後には、「かかった僕がえらそうにすみません。」「皆さんがいつまでも健康でいられますように」とテロップでメッセージを送った。 コロナ療養中の著名人がその様子をリアルタイムで発信するケースは珍しく、今回の動画はYouTube急上昇ランキングにも入り、大きな反響があった。『Smile Up!Project』のなかでも、一歩踏み込んだ動画であり、千賀の勇気ある発信に感謝の声も上がっている。日本でも再び感染者数が増加しているいま、多くのファンを抱えるジャニーズの取り組みは、さらに大きな役割を果たしていきそうだ。
渡邉まりこ