『黒革の手帖』歴代・元子役と徹底比較 武井咲演じる今の悪女がいい理由
そして8年後、2004年に同じくテレビ朝日系「木曜ドラマ」枠で全7回の連ドラとして放送されたのが米倉涼子主演版になる。原作とは異なるラストなど大胆に脚色された。神戸生まれの釈由美子が関西弁で波子を熱演、安島は仲村トオルが演じた。そして元子が銀座に身を投じた最初の店「燭台」のママ・岩村叡子を、82年版の元子役・山本陽子が演じたことも話題になった。なお、好評を受けて翌05年には「黒革の手帖スペシャル~白い闇」としてテレビ朝日系2時間ドラマ「土曜ワイド劇場特別企画」で後日談的なオリジナルエピソードが単発放送されている。
歴代・元子役では最年少の23歳 ハマリ役米倉との比較は重荷にならないのか?
まだ記憶に新しい米倉版から13年、原口元子役のバトンは同じ事務所の後輩、武井咲に渡った。山本陽子が元子を演じたとき、39歳。大谷直子は33歳。浅野ゆう子は36歳。米倉涼子は29歳。そして武井咲は最年少、23歳だ。 もっとも時代が近いということと、同事務所の先輩後輩ということからも、武井版は米倉版と比較される運命にある。それは武井が一番よくわかっているだろうし、プレッシャーも感じていないはずはないが、13年経てば一時代違う。とくにテレビの世界ではこの間、大きな変化があった。米倉版の前年から東名阪の限られた範囲でスタートした地上波デジタル放送。完全地デジ化したのが2011年からなので、今回が事実上デジタル時代初の「黒革の手帖」と位置づけてもいい。 武井版の良さの一つとして、衣装をあげたい。デジタル化により高画質で視聴できるようになったことが、衣装の美しさをより際立たせている。第1話を見る限りでは、米倉版より落ち着いた衣装が多用されている。ホステスに生まれ変わって銀行に乗り込んだ際は、黒のワンピースかと思いきやコートを素肌に着用。エンボス柄部分の光沢が照明に映えて美しく、行員だったときの制服と見事なコントラストが表現されていた。また、とくに着物に関しては、米倉版は米倉の華やかな雰囲気に合った彩り豊かな着物が多く、それはそれで素晴らしかったのだが、武井版の豪華ながらもやや落ち着いた印象の着物のほうが実際の銀座ママのイメージには近いと思う。幅広めの袋帯で二重太鼓、バチ型のかんざしなど、武井の着こなしは完璧だ。 失礼ながら、武井咲にはいささか荷が重すぎる役柄なのではないかと先入観を持っていたのだが、野心を秘めた目の動きがいい。この役で一皮も二皮もむけてやる、そんな武井の覚悟と思いが元子とリンクする部分があるのではないだろうか。持ち前の若々しい美貌は、銀座のママとしてはかえって貫禄を損ないそうな懸念もあったのだが、思えば素人から一気にママに成り上がった元子という人物、どこか危うさを感じさせたほうがそそられる面もあろう。 さらに第2話では、仲里依紗演じる波子が元子のライバルとして壮絶なバトルを開始するという。仲の演技が武井をさらに引き立てるのは間違いない。女優・武井咲の代表作となるか。 (文・志和浩司)