ピラニア軍団が昭和の映画史に放った一瞬の輝き 語り継がれる「役者バカ」の集団
歴史ある日本映画史において、彼らほど脚光を浴びた「脇役」たちはいないだろう。川谷拓三(享年54)、室田日出男(享年64)、志賀勝(享年78)、岩尾正隆(79)、野口貴史(享年81)、小林稔侍(81)らが名を連ねる俳優集団「ピラニア軍団」。車両に引きずられ、火だるまでプールに飛び込むことも厭わない。公私ともにどう猛そのものだった彼らは、いつしか主演のスター俳優たちを喰うほどの人気者となった。しかし、長くは続かず──。(文中敬称略)【全4回の第4回。第1回から読む】 【写真4枚】深作欣二監督、「ピラニア軍団」に熱血指導をした。他、「ピラニア軍団」のアニキ分・渡瀬恒彦さんも
脇役にも個性が溢れていた
スクリーンで縦横無尽に駆け回った彼らは、倉本聰が脚本を担当したドラマ『前略おふくろ様』(1975年、日本テレビ系)に出演するなど、映画だけでなくテレビにも活躍の場が広がった。 1975年には、ピラニア軍団の結成式が大阪市の御堂会館で催され、1977年にはLP「ピラニア軍団」をリリース。不遇の脇役たちが結成した軍団は、主演のスター俳優たちを喰うほどのブームを起こした。 しかし、一躍、時代の寵児となったピラニア軍団は、映画産業の斜陽もあって人気は長く続くことはなく、1980年代に入ると自然消滅した。 映画監督の中島貞夫は「短命に終わったのは必然だった」と語る。 「ピラニア軍団は既存の組織に馴じむことができず、必死に映画という仕事に喰らいつく『役者バカ』の集まりでした。自己主張の強い個性的な男ばかりで軍団を組織として守ろうという意識はなく、当時から『ブームはそんなに長持ちするもんじゃないよ』と語り合っていました」 俳優の成瀬正孝(72、当時の芸名は成瀬正)にとってピラニア軍団は古き良き原点のようだ。 「俺はまだ20代で、役者人生の中で一番燃えていた時代でした。役者としての原点の時代だから、今もピラニア軍団が取り上げられるのは嬉しい限りです」
品行方正が求められ、飲酒や暴力が忌避される現代からすれば、ピラニア軍団が活躍した時代は遠い昔のように思える。 元メンバーで俳優の白井滋郎(71)は、激動の時代をこう振り返った。 「ピラニア軍団には今の時代にないエネルギッシュさがあり、ヤンチャばかりしていました。しかし、仕事に関してはとても真面目で、本当に役者業が好きな方々の集団だったと思う。 今は役者が街で少しでもケンカしたらひどく叩かれるけど、当時はトラブルがあっても東映が矢面に立ってくれた。役者が仕事もプライベートものびのびと過ごせる面白い時代だったから、僕らのような脇役にも個性が溢れてたんじゃないかな」 一瞬の輝きだったからこそ、ピラニア軍団の足跡は後世に語り継がれているのだろう。 (了。第1回から読む) ※週刊ポスト2022年4月29日号