「動物福祉」問われる日本の姿勢 浮き彫りになった世界とのギャップ
吉川貴盛元農相が、大臣在任中に鶏卵生産大手「アキタフーズ」グループの元代表から現金を受け取ったとして収賄罪で在宅起訴された。政界汚職として注目を集めた事件の報道で欠けていた視点がある。日本の採卵鶏の飼育が、国際標準から大きくかけ離れている実態である。この観点での報道が少なかったのは残念だ。(文明論考家、元駐バチカン大使=上野景文) 報道によると、吉川元農相は、鶏卵業界に便宜を図ってもらいたいとの趣旨を知りながら、東京都内のホテルや大臣室で、元代表から計500万円を受け取ったとされる。元農相は動物福祉と訳される「アニマルウェルフェア(AW)」の国際基準案への反対意見の取りまとめを業界から期待されていたと、捜査当局は見ているようだ。 ▽世界の潮流「動物福祉」 アニマルウェルフェアとは、野生動物や実験動物にとどまらず、畜産動物に至るまで、かれらの本性にあらがう取り扱いは控え、苦痛やストレスを与えることを極力回避すべしとの思潮だ。比喩的に言えば、「非人道的扱い」は控えるべきだとの考え方に立つ。この20年間で、世界的に定着してきた。
アルゼンチンでは、チンパンジーを動物園から解放し、自然保護区に移せとの判決が出た。欧州連合(EU)などでは、チンパンジーのような霊長類を医薬品開発の実験に使うことを原則禁止。英国やドイツ、米カリフォルニア州などでは高級食材として知られるフォアグラの生産や販売を禁止している。ガチョウやカモに強制的に大量の餌を食べさせて肝臓を肥大させる製法が問題視されている。 なお「動物福祉」の思想は、家畜について言えば、その命を犠牲にすることを前提にしており、動物を犠牲にすること自体が不道徳だと説く「動物権」の思想家からは批判を受けている。両者は重なる面もあるが、本稿ではそこまでは立ち入らない。 ▽国際基準 畜産動物については、パリに本部がある国際獣疫事務局(以下、OIE)が、動物衛生や食品の安全性、動物福祉の向上などを掲げ、加盟180余国とともにさまざまな標準を整備している。 日本では、農林水産省傘下の畜産技術協会が、OIE標準を念頭に独自のルールを設け、飼育環境の改善を採卵や養豚などの業界に呼びかけている。何分、民間ルールであり規制力は弱い。依然8~9割の業者が、超過密な空間〔バタリーケージ(採卵鶏)、ストール飼育(妊娠豚)〕で飼育しているのが実態だ。規制の厳しいEUや米国の一部州とはだいぶ差がある。