生まれつき運動神経が悪い子はいない…元プロ野球選手が子供の指導で「声出し」をまずやらせる合理的な理由
なぜ野球の指導では「声出し」が重視されるのか。元東北楽天ゴールデンイーグルスの外野手で、現在は同アカデミーで子どもに野球を指導する聖澤諒氏は「『大きな声を出すことが大事』なんて話すと精神論に聞こえるかもしれないが、そうではない」という――。 【この記事の画像を見る】 ※本稿は、聖澤諒『弱小チーム出身の僕がプロ野球で活躍できた理由』(辰巳出版)の一部を再編集したものです。 ■プロ引退後、子どもに野球を教えるセカンドキャリアへ 2019年から楽天イーグルスアカデミーで子ども達に野球を教えることになりました。セカンドキャリア、第二の人生のスタートです。 当時スクールには5・6歳クラス、小学1年・2年生クラス、小学3年・4年生クラス、小学5年・6年生クラス、中学生クラス(硬式)があり、宮城だけでもスタジアム室内練習場を含めた4校、その他に東北全県でも開講しており、僕は中学クラスも含めた全てのクラスを担当しています。 東北は隣の県といっても東京と神奈川のようにすぐに電車で行ける距離ではないので移動だけでもかなり大変です。青森校へは新幹線で移動して泊まりになりますし、秋田校へも移動は車で片道3時間以上かかるので泊まりになります。 岩手校、山形校、福島校への移動は車で日帰りになりますが、一番大変なのが岩手校です。21時まで指導して、そこから車で2時間30分かかりますから帰宅はいつも24時近く。現役時代以上になかなかハードな生活を送っています。
■元野球選手だけでなくコーチの経歴はさまざま 楽天イーグルスアカデミー全体では14人のコーチがいて、僕のような元楽天の選手だけではなくアマチュア野球出身のコーチや、小学校の教員免許を持っているコーチ、中・高の保健体育の教員免許を持っているコーチ、体操教室で教えていたコーチなどいろんな経歴を持ったコーチがいます。そういったコーチが各クラスでどのように指導をしているのか? 最初は研修として3カ月、勉強させてもらいました。 ちなみに楽天イーグルスアカデミーのコーチ陣は、定期的に専門家を招いて小さい子どもにどのように教えるのが良いのか、子どもとの距離の縮め方、子どもに人気のあるコーチは何が違うのかなど、日々勉強し続けています。 ■なぜ声を出すと野球が上達するか、言葉にして説く 練習前には全員整列して大きな声で挨拶を行っています。 「まずは挨拶から」「大きな声を出すことが大事」なんて話すと精神論に聞こえるかもしれませんが、そうではありません。なぜかと言うと「野球は声を出すスポーツ」ということを意識させる必要があるからです。 試合でフライを捕るときが分かりやすいと思いますが、大きな声で誰が捕るのかを指示を出す、自分で捕るなら大きな声を出してアピールすることが大事になります。「大きな声」は野球のプレーに必要なことですし、ぶつかって怪我をすることの回避、自分の体を守ることにもつながります。 ですが、ランニングやウォームアップで「イチ、ニー、サーン」と大きな声を出すことを恥ずかしがる子がとても多いのです。大きな声を出そうと思えば出せるけど、そのことと野球が上手くなることのつながりがまだ理解できてない。どうしてもボールやバットを使った練習をやりたがり、「声」を疎かにしてしまいがちになります。 練習で大声を出さなくても試合で出せるのであればいいのですが、そういう子は今まで見たことがありません。練習で大声が出せない子は試合でも出せないのです。 「練習のときから大きな声を出すことも練習の一つ」「まずは挨拶から大きな声で言えるようになろう」と根気強く言い続けていますが、ただ何度も言うよりも、子ども達の心に届くタイミングを逃さずに言うことが大切です。 ノックをしているとき、野手の間に上がったボールをお見合いして落としてしまったり、声は出しているけど相手が気付かずにボールを投げてもらえなかったり。そういうときは絶好のチャンスです。プレーを止めてすかさずこう話します。 「相手に聞こえなかったら声を出しているうちに入らないよね?」「こういうときに大きな声が出ないから、練習前の挨拶やアップのときから大きな声を出す練習をしているんだよ」 こういうプレーが実際にあったときに話すことで、子ども達も聞く耳を持ってくれますし、納得してくれるようになります。逆に言えば、子ども達が聞く耳を持ってくれるタイミングがくるまで、聞く体勢ができるまで教える側は何度も言い続ける必要があるということかもしれません。小学生を指導するのは本当に根気が必要です。