企業と消費者、協働促すハブに―消費者庁 伊藤長官
2019年に創設10周年を迎えた消費者庁は政策の基本方針を大きく変えた。悪質な企業や商法を取り締まるだけでなく、エシカル消費を促進するため顧客と企業の協働を後押しする。伊藤明子・消費者庁長官は「エシカル消費のナッジは顧客の参画」と語る。(聞き手・オルタナ編集長=森 摂、オルタナS編集長=池田 真隆 写真=高橋 慎一) 企業と消費者、協働促すハブに
――2020年3月31日に閣議決定した第4期消費者基本計画(2020年度―2024年度)では消費者と企業の協働を強調しました。 第1期から第3期の消費者基本計画では、消費者被害の防止や消費者教育の推進に力を入れていましたが、第4期の消費者基本計画では、消費者と事業者の協働を強めに打ち出し、重点テーマに消費者志向経営とエシカル消費、食品ロス削減の3つを掲げました。 これまでの政策は、消費者は保護、事業者は規制という方針でしたが、近年は事業者を取り巻くステークホルダーの関係性が大きく変化しています。従来は株主と事業者の関係が強かったのですが、今では、事業者は株主だけでなく、顧客や地域社会、NGO、取引先などから時として厳しい視線を受けます。こうした環境の変化に対応するため、消費者庁も変わらないといけないと考えました。 消費者には保護だけでなく自立支援も、事業者には規制だけでなく自主的取組みの支援も促す方針に変えました。そして、消費者と事業者の協働を促進するための働きかけも行っていきます。
ESGの「S」 優良事例を表彰
――これまでは消費者を騙す悪質な事業者を規制する印象が強かったのですが、どのような働きかけで事業者の自主性を伸ばしますか。 悪質な事業者への対策は継続するのですが、健全な事業者に対しては、向き合い方を変えていった方がいいのではないかと考えました。企業が生き残るためには、消費者の声をくみ取ることが必須です。そこで、従来から、消費者庁として、法令を遵守して、消費者目線で現場の声を集めることを消費者志向経営として提唱してきました。 このたび、一橋大学大学院の名和高司客員教授から助言を受けながら、その考え方にSDGsの指標も加えて、将来世代のことも踏まえた経営を新たな消費者志向経営としました。これは消費者と共創・協働して社会価値を高める経営です。 このフレームワークをもとに経営者がガバナンスとサステナビリティを意識することで、達成年まで残り10年になったSDGsへの貢献やエシカル消費の促進につながります。現在、消費者志向経営を宣言している事業者は158社(2020年7月末)です。