<削がれるドローン攻撃の効果>ウクライナが長距離ミサイルを強く求める背景
ドローン攻撃の効果を削ぐロシアの対策
ウクライナにとってドローンは、この戦争を有利に展開するための最も重要なツールの一つであり、特に初期段階ではロシア側に多大な損害を与えることに寄与した。ただしロシアも戦争から多くを学び、ドローンの技術革新は双方の「いたちごっこ」の様相を呈している。 その中で、今日のウクライナにとって、ドローン攻撃の効果を削いでしまう最大の懸念の一つが、ロシアの滑空爆弾による攻撃である。ロシアの滑空爆弾は、飛び出す翼と衛星(グロナス)誘導方式の自由落下爆弾で、ソ連時代からの古い重力爆弾を改良した滑空誘導爆弾(UMPK)を戦闘機に搭載し、ウクライナ軍の保有するミサイルの射程外から攻撃するスタンドオフ攻撃で使用される。ロシアは滑空爆弾を23年から何度か使用してきたが、本格的に多用し始めたのは本年4月からである。 ところがウクライナにとって最大の問題は、目下のところ滑空爆弾による攻撃に対抗できる手段をほとんど有していないことである。滑空爆弾は小型でしかも低空飛行することからレーダーによる探知が困難で、探知可能な熱反応もない。 滑空爆弾を無力化するためには結局のところ、発射プラットフォームたる戦闘機を破壊しなければならない。攻撃型ミサイルで空軍基地等に駐機する戦闘機を破壊することが考えられるが、これらの空軍基地は、米国から許可されている80km程度を遥かに超える数百キロ彼方にある。ウクライナは米国から射程300kmのATACMSを供与されているが、当該射程で使用してはならないとされている。 つまりウクライナは、滑空爆弾を無力化し、多くのウクライナ市民を救うことのできる兵器を供与されながら、その高性能の使用を禁止され、被害を受忍するしかない状態に置かれているのである。ウクライナが長距離ミサイルの使用を強く要請しているのは、このような背景がある。
岡崎研究所