労働力不足でスタグフレーションの様相を強めるロシア経済
ルーブル安、物価高、大幅利上げの三重苦
ロシア連邦統計局が8月11日に発表した2023年4~6月期のGDPは、前年同期比で+4.9%となった。5四半期ぶりのプラス成長である。しかしこれは、ウクライナ侵攻直後であった前年同期に、ロシア経済が大幅に落ち込んだことの反動によるところが大きく、ロシア経済が本格回復に転じたことを示すものではない。 ロシア経済にとって差し迫った問題は、歯止めがかからないルーブル安、それによる物価高、さらに通貨防衛のための大幅利上げによる景気抑制の三重苦である。物価高や経済の悪化は通貨安に跳ね返り、それが物価高をさらに促すという悪循環に陥るリスクもある。 ロシア中央銀行は15日に臨時の金融政策決定会合を開き、政策金利を8.5%から13%へと一気に引き上げる措置を決めた(コラム「歯止めがかからないルーブル安とロシア中銀の大幅金融引き締め」、2023年8月15日)。消費者物価上昇率を9%近く上回る水準にまで政策金利を一気に引き上げたことで、企業や個人の資金調達コストは上昇し、経済活動への悪影響も避けられないだろう。さらに、ロシア中央銀行は追加の政策金利引き上げを検討しているとみられる。
ウクライナ戦争後ロシアからの国外移住は100万人との推定
ロシア中央銀行は7月に、2023年の年間消費者物価上昇率を+5.0%~+6.5%とする見通しを発表している。7月の実績値+4.3%から、年末にかけて物価は急加速していくことが見込まれている。物価上昇率を押し上げているのは、ルーブル安だけではない。深刻な労働力不足が、賃金の上昇を通じて物価を押し上げている。 ウクライナ侵攻後は、ロシアで労働力不足が深刻化している。5月の失業率は3.2%の低水準となった。ロシア中央銀行の企業調査によると、労働力不足は過去25年で最も深刻とされる。もともとロシアは、出生率の低下や高齢化、死亡率の高さなどの人口動態の要因から、労働力人口は減少していた。そこに加わったのが、ウクライナ侵攻の影響である。昨年秋の30万人の動員や動員逃れなどのための出国によって、ロシアの労働力不足は一気に深刻になったのである。 フランスのシンクタンク「国際関係研究所(IFRI)」は、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以降、ロシアから国外に移住した人の数が100万人に上るとの報告書を発表している。