【2021年最注目】“アマゾンを脅かす存在”として急成長中のShopifyは何がすごいのか
コロナ禍で利用頻度が高まったeコマース市場は、アマゾンが大きなシェアを握っている。ただし近年、自社のブランド力を高めたい企業のあいだで“反アマゾン”の動きが広がっているのも事実だ。 その旗手として注目を集めているのがカナダに拠点を置く企業ショッピファイだ。まだ日本では知名度が低いが、2021年には何度も耳にするようになるはずだ。同社が注目を集めている理由を米誌が詳細に解説する。 2020年3月、マンハッタンのオーガニック食品ケータリング会社「オクス・ヴェルデ」は開店休業状態に陥った。新型コロナウイルスの感染拡大によって、無料のランチや朝食を提供してきたスタートアップや営業社員などの法人顧客が、軒並み在宅勤務に踏み切ったためだ。 イベントや会議もキャンセルが相次ぎ、こちらの需要も当面見込めない。オクス・ヴェルテのジェシー・グールドCEO(最高経営責任者)にとって、従業員の雇用を維持し、配送員への支払いを継続するために、パンデミックを乗り切る唯一の道は「販売方式の転換」しかなかった。 オフィスへのケータリングをやめ、一般家庭に食品を宅配するのだ。インスタント食品に加え、これを機に料理を作る気になった(あるいはそうせざるを得なくなった)健康志向の消費者にアピールする食材ボックスを販売する。 ただ、会社のウェブサイトはあるが、個人客の注文には対応していなかった。そこで、カナダに本拠を置くeコマース(電子商取引)プラットフォーム「ショッピファイ(Shopify)」のサービスを利用して、新たにオンラインショップを立ち上げることにした。
ショッピファイをD2Cブランドが支持する理由
2006年にオタワで創業したショッピファイは、もともとありふれたeコマースサイト構築会社にすぎなかった。出店したい人は支払いや決済処理、プログラミングなどの複雑な処理を気にすることなく、ただ商品の写真をショッピファイに転送し、価格を決め、銀行口座情報を提供すればすぐに商品を売ることができる。 ここ15年ほどでeコマースは物珍しい存在から日常の一部へと成長した。ショッピファイの事業もそれに伴って拡大を続け、いまや時価総額1000億ドル超の上場会社だ。ショッピファイのサービスには同社プラットフォームの加盟店向けに資金を提供する「ショッピファイ・カタログ」や、顧客用決済システム「ショップペイ」などがあり、こちらは6000万人以上のユーザーが利用している。 同社によると、アメリカ国内でよく利用されているeコマースサイトの順位で2019年、ショッピファイが「イーベイ」を抜いて2位となり、eコマース売上高全体の6%近くを占めているという。ちなみにトップはアマゾンで、売上高のシェアは37%だ。 アマゾンの「マーケットプレイス」は、顧客が商品を買いに行くタイプのオンラインマーケットだが、ショッピファイは違う。同社のソフトウェアを見ることができるのは契約出店者だけ。一般の顧客はアマゾンのように「Shopify.com」というサイト上で買い物をするのではなく、またそこに商品が掲載されているわけでもない。 オクス・ヴェルデの場合、ショッピファイの用意したeコマースソフトウェアを使用して支払い処理と在庫管理を行っている。このショッピファイ方式はアマゾンをはじめ、ウェイフェアやウォルマートなどサードパーティー運営型マーケットプレイスで利益を折半したり、ブランドが弱体化したりすることを望まない「ダイレクト・トゥ・コンシューマー(D2C)」ブランドのあいだで歓迎されている。 「D2Cの精神は、顧客と直接つながる関係性を持つこと。ショッピファイはアマゾンよりはるかにショップ側の自由度が高い」と、エンジェル投資家のポール・マンフォードは述べる。彼の配信するニュースレター「リーン・ラクス」はD2Cに特化した内容で、高い人気を誇る。 ショッピファイは事業内容こそ地味だが、会社としては大躍進を遂げた。テック系ニュースレター「ストラテクリー」の著者ベン・トンプソンは最近、ショッピファイを中心とする勢力を「反アマゾン同盟」と名付けている(おそらくショッピファイ以上に知名度が高いと思われる自称反アマゾンの旗手は、グーグル・ショッピングだろう)。 とくにここ数年、ショッピファイはフェイスブックのような大手スポンサー企業と次々と提携して、仮想世界でアマゾンに奪われている分野を現実世界に取り返す役回りに転じた。 オンライン販売事業者にとって、アマゾンのサイトを経由せずに2日配送や簡単な手続きのみの返送サービス、特典付きカスタマーサービスや業務全般の合理化を実現することは長年の夢だった。 ナイキのような老舗大手はともかく、小さな企業や販売主がそれを手にするのは難しい。しかしショッピファイが加盟店間で共有可能なソフトウェアインフラを構築したおかげで、既存のeコマースビジネス間の競争が促されただけでなく、新規参入もしやすくなったのだ。