Yahoo!ニュース

IDでもっと便利に新規取得

ログイン

【失敗の本質】2009年新型インフルエンザも02年SARSも「水際作戦」は成功していなかった《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㉗》

配信

  • この記事についてツイート
  • この記事についてシェア
BEST TIMES

    なぜ、日本の組織では、正しい判断は難しいのか。  なぜ、専門家にとって課題との戦いに勝たねばならないのか。  この問いを身をもって示してくれたのが、本年2月、ダイヤモンド・プリンセスに乗船し、現場の組織的問題を感染症専門医の立場から分析した岩田健太郎神戸大学教授である。氏の著作『新型コロナウイルスの真実』から、命を守るための成果を出すために組織は何をやるべきかについて批判的に議論していただくこととなった。リアルタイムで繰り広げられた日本の組織論的《失敗の本質》はどこに散見されたのか。敗戦から75年経った現在まで連なる問題として私たちの「決断」の教訓となるべきお話しである。 この記事の写真はこちら ■これまでの失敗  2009年に新型インフルエンザが流行したとき、日本は水際作戦などなど、いろんなことに失敗しました。でも、「問題はあったし患者さんも出たけど、そうは言っても死亡者数も200人ぐらいで収まったし、外国に比べれば少なかったから、よかったよね」みたいな流れになって、話はそれで終わりました。  あのときもぼくは、日本にもCDC(疾病予防管理センター)をつくろうとか、あるいはワクチンに関してACIP(Advisory Committee on Immunization Practices=ワクチン接種に関する諮問委員会)をつくろうとかという提言をしたんです。だけど、「先生の言うことも分かるけど、みんな頑張ったし、良かったじゃない」とか言って、結局CDCもACIPもできなかった。  2002年のSARSのときも、「日本は水際作戦に成功した」と新聞は書いてましたけど、本当は成功なんかしていません。 「水際作戦が成功した」というのは、SARSの患者さんが10人とか20人とか日本に上陸しようとしたけど、防疫の段階でストップしました、ということですよね。  でも、あのときに空港とか船でブロックしたSARSの感染者なんて、1人もいなかった。ただ単に患者さんが日本に来なかっただけです。  それどころか、じつは1人、日本に入国してしまって淡路島を周ってそのまま出国した人すらいたのです。たまたまその人が日本で流行を拡げなかったのでラッキーだった、それだけです。  SARSのとき、カナダでは大勢の患者さんが出たのに対して、アメリカ合衆国では1人も出なかった。両者の違いはどこか。後にアメリカで議論されたときは、「アメリカは単に運が良かっただけだ」と専門家たちは言っていました。アメリカのシステムでもSARSが入ってきたら大変な事態になっていた可能性を認めているんです。  でも、日本は認めない。  SARSが流行した2002年頃、中国人の1人当たりGDPは、今と比べてとても低かった。要は中国人にとって、日本はまだまだ物価が高い国だったわけです。  今では中国人がお金持ちになったので、物価が安い日本に多くの中国人が買い物に来ますけど、当時はまだそんな状況ではなかったので、入ってくる中国人の数が圧倒的に少なかった。だから、たまたまSARSの感染者が来なくて、たまたま日本ではSARSの流行が起きなかった。  たまたまラッキーでSARSが入ってこなかったんだ、という分析もしないで、「あのときにやった水際作戦が成功したんだ」という話にしてしまったせいで、日本ではいまだに水際作戦信仰があります。  だから、成田や羽田や関空に入国するときには、「MERS対策でラクダに気をつけましょう」みたいなポスターが貼ってあったり、「ブラジルではジカ熱が流行っています」とかいってサーモグラフィーで温度を測ったりしますよね。  でも水際作戦がうまくいかないことは、専門家の間でも昔から分かっていたことですから、アメリカにもヨーロッパにもアジアにも、あんなポスターを掲示している空港はありません。あれをやってるのぼくの知る限り日本だけです。  SARSのときに間違った神話を作ってしまったせいで、日本はいまだに「空港でブロックできる」という神話に取り憑かれているんです。  しかも、2009年の新型インフルエンザのときは水際作戦が何の役にも立たなかった。5月に神戸市で国内発生例(海外渡航歴なし)が見つかりますが、それは開業医が国の診断基準(メキシコ、米国、カナダへの渡航歴)を信用せず、「国内発生がある」という前提で検査を強く依頼した結果でした。 「自分たちは間違っているかもしれない」という健全な懐疑心は失敗を防止する非常に良い考え方なのです。こういうエピソードがなく、自分たちの神話にすがっていたら、日本の新型インフルエンザ被害はずっと大きくなっていただろうとぼくは思います。 (「新型コロナウイルスの真実㉘」へつづく)

文:岩田健太郎/構成:『BEST TIMES』編集部

【関連記事】