Yahoo!ニュース

IDでもっと便利に新規取得

ログイン

「球磨川に罪はない」 人吉の73歳スーパー会長、前向く 熊本豪雨

配信

熊本日日新聞

 このままでは街がなくなってしまう-。熊本県南部を中心に襲った豪雨は、球磨川に近い人吉市の中心商店街を一変させた。濁流は店や旅館のガラス戸を打ち破り、商品や棚を泥と水でくまなく覆った。創業60年の地場スーパー「イスミ」の会長、岡本光雄さん(73)は「商店街は壊滅的な状況。営業を諦める店も出るだろう。早く具体的な支援策の情報がほしい」と訴えた。  4日午後6時ごろ、水が引いたのを見計らい、岡本さんはぬかるみに足をとられながら商店街を歩いた。甚大な被害にがくぜんとし、「店主のみなさんは立ち直れるだろうか」と不安を覚えた。  イスミ本店(同市九日町)に従業員用の出入り口から入ると、店内は停電で真っ暗。肉や魚のパック、野菜、総菜などが床にたまった泥に埋まり、商品棚は傾いていた。地下への階段は泥にまみれた商品や買い物かごなどが散乱。手が付けられない状態で、その日は何もできなかった。  旬の生鮮品や総菜が並び、従業員と買い物客らが当たり前に会話する老舗スーパーの日常は、予告なく奪われた。被害額は、在庫の廃棄だけで1500万円に上る見込みだ。「何とかして営業再開にたどり着きたいが、いつになるか…」

 同市五日町にある創業百年の「山田折箱店」も、店の1階やプラスチック容器などの在庫が全て水に漬かった。3代目の山田泰久さん(67)は「木箱からプラスチックに需要が移り、今では仕入れ業が中心で、もともと厳しい状況だった。こんな状況ではとても再開は考えられない」と廃業を口にした。  同市紺屋町でバー「シシリアン」を経営する中村久典さん(52)は「飲食店が多い商店街だが、半分近く廃業すると聞く。ビルもいくつか取り壊しが決まったようだ」と心配顔。ただ、「再開の見当もつかないが、自分は必ずこの場所で再開したい」と力を込めた。  球磨川沿いにある温泉旅館「清流山水花あゆの里」では14日、泉源に流れ込んだ土砂を取り除き、湯が再び湧き出した。女将[おかみ]の有村政代さん(69)は「温泉は旅館の命。光が差したようで、とにかくほっとした」と顔をほころばせる。  それでも、豪華なラウンジやバー、ロビーや売店があった1階は全壊。「全面復旧はまだ先だが、少しずつ再開させていきたい」

 中心商店街の被害は、人吉市と人吉商工会議所が調査中だ。地元の商店街振興組合の組合長も務めるイスミの岡本さんは「営業再開を断念した経営者もいるが、支援策のメニューが出れば気持ちが変わることもあるだろう。組合費を無料にしたり、支援策の相談窓口を設けたりしたい」と腐心する。  球磨川の氾濫について、岡本さんは「ダムによらない治水対策がなされないまま、今日に至ったからだ」と悔しさをにじませつつ、温暖化の影響を危惧。「災害はどこでも起きる。だから球磨川に罪はない。球磨川のことを悪く言う人吉の人間はいない」。声を震わせ、あふれる涙と汗をぬぐった。(飛松佐和子、川野千尋、中尾有希)

【関連記事】