“少しだけ”知っている人のほうが初対面より話しにくいのはなぜか? 自分の中に存在するイマジナリーな他者を現実の他人に投影してしまう理由
「気にしすぎ人見知り」は想像上の他者に起こる
特に、空想的な他者意識とだけ強い関連が示された、発表や発言をしなければならない場面や、親しくはない相手と話す場面に不安を感じるという心理状態は、新学期に「顔見知り程度の知人と話すのがストレス」と愚痴っていた学生さんや、学校や職場でついてまわる発表や発言への苦手意識がある人たちにあてはまることでしょう。 私と相馬さんは、そんな人たちの心理状態について、イマジナリーな他者を「気にしすぎ人見知り」と名づけました。 単純に見知らぬ人への不安からくる人見知りではなく、自分で他者についてあれこれ勝手に考えて気にしすぎるから、人見知りをしているというわけです。人見知りとは、実在する目の前の人にだけ起こるのではなく、想像上の他者に対する不安や緊張感を、実際の対人場面に投射してしまうプロジェクションによっても生じることが示唆されました。 私も、学会などで研究成果を発表するばあい、「このテーマにすごく詳しい人がいたらなんて言うだろう」「こんな質問が来たらどうしよう」「この考えはどう思われるのかな」などと勝手に考えてしまっている時が、いまだにもっとも緊張します。 でもそれは、あらためて考えてみれば、具体的な誰かではなく、実際になにか言われている時でもなく、私のなかの漠然としたイメージの他者によってもたらされているのです。 緊張やストレスといった精神的な疲労は、実際の状況だけではなく、自分のなかのイマジナリーな他者に起因することが少なくないのかもしれません。 写真/shutterstock
---------- 久保 (川合) 南海子(くぼ (かわい) なみこ) 1974年東京都生まれ。日本女子大学大学院人間社会研究科心理学専攻博士課程修了。博士(心理学)。日本学術振興会特別研究員、京都大学霊長類研究所研究員、京都大学こころの未来研究センター助教などを経て、現在、愛知淑徳大学心理学部教授。専門は実験心理学、生涯発達心理学、認知科学。著書に『「推し」の科学 プロジェクション・サイエンスとは何か』(集英社新書)、『女性研究者とワークライフバランス キャリアを積むこと、家族を持つこと』(新曜社)ほか多数。 ----------
久保 (川合) 南海子