“少しだけ”知っている人のほうが初対面より話しにくいのはなぜか? 自分の中に存在するイマジナリーな他者を現実の他人に投影してしまう理由
イマジナリー・ネガティブ #2
認知科学の概念「プロジェクション」とは、自分の内的世界を外部の事物に重ね合わせるこころの働きだ。ひとは無意識的に想像上の他者を、目の前にいる他人に投影してしまうという。それによって、必要以上に他人にどう思われているかを考えすぎてしまうのだ。 【画像】著者が「緊張してしまう」と語る場面 書籍『イマジナリー・ネガティブ』より一部を抜粋・再構成し、そのメカニズムを解説する。
イマジナリー・アザーズ あの人に嫌われるようなことをしてしまったのかも
私の子どもはたまに「今日は友達と、なんだかうまく話せなかった。もしかしたら、なにかまずいことでもしちゃったのかなあ」などと気に病んでいます。 そういう時は「うんうん、よくあるよね、そう思っちゃうこと」などと言いながら、子どもの話を聞いて、「それはあなたの気のせいなんじゃないの」とか、「たまたま機嫌が悪かったのかもね」「明日になったらまたいつもみたいになってるよ」などと慰めています。 ある時、友人の○○さんのことで深刻に悩んでいるようだったので、しっかり話を聞きました。すると、なにか具体的なトラブルがあって仲がこじれているわけではなく、いつもより冷たく感じるような態度だったので、もしかしたら自分がなにか嫌われるようなことをしてしまったのではないか、でもそれがなんだか全然わからないので考えていてもとてもつらい、というようなことでした。 私は、落ちこむ子どもの背中をさすりながら、あなたに思いあたるようなことがないなら、あなたがいくら考えてもしかたがなくて、どうしても気になるなら直接○○さんに聞くしかない、だって、あなたが考えていることはどうしたってあなたの想像でしかないんだから、それは現実にあった本当のことではないんだよ、などと言っているうちに、はたと気がつきました。 これは、プロジェクションだ、と。子どもは、自分が想像している○○さんの気持ちを、現実の○○さんに投射しているのです。そして、あたかも○○さんが本当にそう思っているかのように、思いこんで悩んでいるのです。 思わず子どもに「それって、あなたのネガティブなプロジェクションなんだよ!」と、興奮気味に先ほどの説明をしたら、「お母さん、またプロジェクション……」というような顔をされましたが(すまん)、「たしかに、そうかも」と憑き物が落ちたように納得していました。