「やさしい日本語」が教える「かっこいいデザイン」の落とし穴 「書いてあるやん!」が伝わらない理由
「やさしい日本語」について、まちなかで見聞きしたことはありますか? 外国人のための特別な言葉、と思う人もいるかもしれません。ところがデザインの視点でも、それは、日本人にとって大事な気づきが山ほどありました。実は「縁遠くない」やさしい日本語の魅力について、イラストレーターの立場から考えます。(コラム・イラスト、逸見恒沙子) 【画像】こちらが「やさしい日本語」にした役所の文書。あなたは分かる? 役所言葉の読解力テスト 今回、連載「#役所をやさしく」のイラストを担当した逸見恒沙子です。この連載は、小難しい「お役所言葉」を、誰にでも分かりやすい「やさしい日本語」にしようとする神戸市の若手や外国人職員の奮闘描いています。 ところで、みなさんは「やさしい日本語」って知っていましたか? わたしは、今回の連載で、イラストを担当して初めて知りました。 でも最初は正直、「役所に勤めているわけでもないし、あまり使う機会はないかも」と思っていたんです。 それが、連載を読んでいくうちに「あれ、これは私にも関係のある話だな」「この考え方は日常で役立つぞ…」と徐々に「やさしい日本語」の魅力と実用性に気付かされました。 なので、同じように「自分は、やさしい日本語と縁遠いかな」と感じている人にも、過去の連載を読んでもらえると嬉しいです。 中でも、私が特に印象に残った記事3つをご紹介します。
魅力と実用性
最初におすすめしたい記事は「異文化の果てなき戦い? 『ゴミ捨て』問題のワナ」です。 生活に困窮した市民をサポートする「生活支援課」の職員が、窓口で外国人住民に対応した時のエピソードがつづられています。 ゴミ捨てを巡りトラブルになった外国人住民は、「ちゃんとごみを捨てたのに、怒られた」と訴えます。 職員は本当に「ちゃんと」できていたのか、一つ一つ、具体的に確認します。「指定の袋で捨てましたか?」「指定の場所に捨てましたか?」「ごみの分別はしましたか?」「ごみを出す曜日は確認しましたか?」「指定の時間までに出しましたか?」。 すると、その人は驚いたそうです。 よくよく話を聞けば、その人の母国ではごみを分別して、決まった日時に出す文化がそもそもなかったということで、「ゴミ捨てに細かなルールがある」という日本の前提が、共有できていなかったから起きたトラブルだったことが分かったそうです。日本の「ちゃんと」と、母国の「ちゃんと」の違いがトラブルを招いていた、というエピソード。 この記事を、私は「異文化コミュニケーションの大変さが詰まっている…」と興味深く読みました。 私はデザイナーなので、よくお客様から「いい感じでお願いします!」とか「オシャレな感じで!」という抽象的なオーダーをいただきます。でも、それぞれの「ちゃんと」や「いい感じ」「オシャレ」って、日本人同士でも全然違うんですよね。 だから、すれ違いが起きないように、具体的にどうするかを擦り合わせていく作業が重要になります。そうすれば「ちゃんと」の前提になる、お互いの意識が分かって、トラブルも防ぐことができる。 この記事を読んで、私はいつも、デザイナー言語ではなく、お客さんに伝わるような「やさしい日本語」で説明できているかな?と、振り返ったりしました。 「やさしい日本語」を知ったことで、普段の自分のコミュニケーションの自己点検にも繋がりました。