「クラスター追跡」の優先度を下げるべき時期に来ている…感染拡大からまもなく1年、現役保健所長が訴え
病床数や看護師不足など、医療体制の逼迫が指摘される中、感染者数の取りまとめ、入院治療や宿泊療養、自宅療養などの手配、さらにはクラスター追跡などを担う地域の保健所が厳しい事態に直面している。 【映像】“感染症対策の司令塔“保健所長が生出演 こうした状況に対し、加藤官房長官は「保健所が保健師等の専門職を中心に重要な役割を果たしている一方で過大な業務負担が生じている。引き続き、保健所でクラスターを特定するための積極的疫学調査が滞りなく実施がされるよう、国としても支援に努めていきたい」と話している。
企業や繁華街も多く、昼間人口の多い東京都港区の「みなと保健所」所長の松本加代医師は「ピーク時には日に300件ほどの電話がかかってきていたが、今は50件前後。港区は医療資源が豊富なので、個人は自主的に検査をしている方がほとんど。だから企業からのものが多く、内容も検査についてというより、それ以外の対応についてのものが中心だ。また、保健所を介して受けなければいけないのは濃厚接触者の一部に限られているし、今は発症から3日くらいで結果が分かるので、多くの方が早めに検査に辿り着けているとも思う」と話す。 一方で、「陽性になった場合は原則的に入院かホテルかを選んでいただき、どうしても自宅がいいという方に対しては認めてもいるが、その時にトラブルになってしまうことはある。また、外国の方の場合は文化も異なるので、日本の法制度を理解いただくのが難しいと感じることもある。さらに家庭や職場、会食など、感染の原因が追えている方は3割程度で、残りの7割程度については聞き取りの中では追えない状況にある」とした。
■事後的な対策に注力することで、どれほど流行を抑える効果があるのか
クラスター追跡について、政府の感染症対策分科会の尾身茂会長は「見えにくいクラスターを突き止めるための調査が今も難しくなっているが、さらに困難になると考えている」と警鐘を鳴らしており、厚労省アドバイザリーボードのあるメンバーも「今や感染が拡大し、クラスター追跡の限界がきてしまった。保健所の業務がひっ迫していて、優先順位をつけざるを得ない」と指摘。 厚生労働省は「感染者の行動履歴確認」から重症化リスクのある人が多くいる場所や、3密、大声を出す環境といった、「感染リスクが高い場所の調査」を優先することに方針を転換している。約150人の人員を抱え、現在では比較的円滑に業務が行えている「みなと保健所」でも、課題は少なくないようだ。 「みなと保健所の予防課にはもともと20名くらいしかいなかったが、さらに生活衛生課と健康推進課も合わせて保健所全体で200名くらいになっているので、足りているといえば足りている。とはいえ対応が可能な職種は限られているし、私たちもこの生活を1月から続けている。かなり疲弊してきている部分はあるし、この体制でどこまでやり続けるか、という問題はある。やはり陽性者を病院に送り込んでいるのは保健所なので、病院の前に保健所が逼迫してしまうことにはなるし、そこは保健所の数が減っていることも背景の一つにはある。今後は全国的にもお辞めになる方が出てくる可能性もあるだろう」。