現代屈指のギターアイコン、マーガレット・グラスピーが語る「生々しさ」の美学
生々しいギターサウンドの秘密
ーギタリストとして愛用してきたギターやアンプ、ペダルの遍歴を教えてもらえますか? MG:長く弾いてきたのはDanocaster。要はテレキャスターなんだけど、インディペンデントのビルダーが作ったのでDanocasterというの。クリームっぽい白いギターで、新品だったけどレトロ風な見た目。 最近のレコードで弾いているのは、1978年製のTelecaster Deluxe。これはテレキャスターなんだけどHumbuckerを2台搭載してる。そしてとても重い。それまでのギター2本分の重さがあるんじゃないかってほど重い。でもそのぶん、サスティンがとても長くて、若干ダークなサウンド。Danocasterはカントリー風のテレキャスらしい、トゥワンギーなサウンドだったけど、Tele Deluxeはロックンロール・ギター。トム・ヨークがレディオヘッドで弾いていたと思う。キース・リチャーズもDeluxeじゃなくてハムバッカーが1台だけのタイプを弾いていたはず。要はカントリーというよりロックンロールの系譜にあるギターで、重くてハムバッカーを積んでいるところはレスポールに似ている。つまり、全く違うタイプの獣ってこと(笑)。 ー獣って(笑)。 MG:ペダルに関しては昔から最小限しか使ってない。多用し始めると音楽の邪魔になるし、ペダルで音楽を語らせようとしたことは一度もない。ディレイも試したけど好みじゃなかった。『Emotions and Math』で使ったのはチューニング・ペダル、リヴァーブ・ペダル、ブースト・ペダルだけ。今は、チューニング・ペダルとStrymonのリヴァーブ・ペダル、新しいPete Cornishペダルを使ってる。一種のプリアンプ。結構大きくて、コンプレッション・ペダルとディストーションが同時に出せるカスタムユニットで、私のサウンドの大きな部分になってきている。 ーPete Cornishにはどんな質感やソニックを求めているのですか? MG:ちょうどいい、適度なオーバードライブ感というか。でも一言で言えば、とにかくいいサウンドを求めてるだけ(笑)。出してみて「お、いいじゃん」と思ったらそれで行く。アンプの音を上げても「アンプからいい音が出てる」という音にしたい。アンプで好きなのはPrincetonかReverb Deluxeのどちらか。演奏する会場にもよるけど、一番好きなのはPrincetonかな。 ー『Emotions and Math』を初めて聴いた時、とにかくギターの鳴りに驚いたんですよね。そこはこだわっている部分じゃないですか? MG:ええ。あのアルバムを作っていた頃、Champという5~8ワット程度の小さなアンプで鳴らしていたこともあった。すごくコンパクトだけど挑戦して音量を上げると、オーバードライブがすごく美しく崩れる。それがとても好きだった。そしてもっと低音を出すのに大きなアンプを使いたい時は、更にChampを通してリアンプした。小さなChampを通して再録音することで、さっきも言った美しい崩れ具合が加わるから。ギターサウンドにはもちろんこだわるけど、そのギターを聴いた時に「これは何の機材を使ってるんだろう?」と思わせるのではなく、ただ聴いて「いい音だ」と思ってほしいだけ。ギターに関しては本能的に感じたいから。 ーそうそう、「ギターそのものの音の魅力」が聴こえてくる録音なんですよね。音作りに関して参照にしたアルバムとかありますか? MG:ジミ・ヘンドリックスを参照にしたこともあったし、ストーンズの『Some Girls』みたいに、ブルージーなロックギター・サウンドをパンキッシュな曲で使う感覚がすごく好き。1stアルバムはストーンズからの影響もかなり大きかった。他にはパティ・スミスも少しだけ。 1stアルバムはソニック・ユースが何枚もレコーディングしてきた、マンハッタンのシアー・スタジオで録音したんだよね。「ここにソニック・ユースがいたんだ」という雰囲気があったし、私も彼らに恥じないような、嘘のない純粋な音楽をギターサウンドで表現しようと思ったのを覚えてる。シアー・スタジオの名を汚すようなことはしたくなかったから。 ー『Emotions and Math』も『Echo The Diamonds』もギタートリオで録音してますよね。その編成も含めた作曲に関しても聞かせてもらえますか? MG:大抵、曲は家でアコギで書き、レコードを作る段階でその曲をエレキで「カバー」する。だからレコーディングではまるで、他人の音楽をエレクトリック・ギター奏者として演奏しているような感覚。そしてギタートリオという編成は……なぜかわからないけど、すごく楽しい(笑)。各自が責任を負い、ライブ中も気を抜くことなく綱渡りしている。バックアップは一切なし。誰も私のギターパートをダブルで弾いてくれないわけで。責任感を持って何かを届けなければならないという一種のリスク、それこそがある種の期待感を生み出してくれる。私はトリオのそういうところが好き。次の瞬間には、すべてが壊れてしまうかもしれないっていう危うさがたまらないというか。 私自身、ライブを観に行くのが好きなのもそういう理由。ライブは「今、ここ」でしか起きない。ステージでは、スタジオ・マジックを駆使して作られた音楽の再現は観たくない。私はただ、生々しくて興味深いものが見たいだけ。トリオはそういう音楽を共に作ってくれる。 ーソングライターではどんな人が好きですか? MG:やっぱりエリオット・スミス。若い頃はジョニ・ミッチェルからも影響を受けた。そしてボブ・ディラン。フォーキーな初期も大好きだし、エレキギターを弾いてロックンロールな曲をやっていた『Shot Of Love』もすごくいい。 ー80年代初頭のディランですよね。 MG:あとは作曲面に関していうと、『Echo The Diamond』の制作中、好きな音楽を聴き返していて気づいたのは、特に兄や姉に教わったロックバンドからの影響。例えば、パール・ジャムとか。 ーへぇ! MG:もともとパール・ジャムは大好きだったけど、幼い頃はソングライターとしては見てなかった。でも、兄や姉が家でかけていた彼らの楽曲を、大人になってから改めて聴くとかなり刺激を受ける。エディ・ヴェダーが歌う静かで美しい曲も、「Spin The Black Circle」みたいなロックンロールも。特に好きなアルバムは『Vs.』と『Vitalogy』かな。