「儲かるからSDGs」だけでは続かない。サステナブルな社会実現のヒントを枝廣淳子さんに聞く
「タイパ」の時代だからこそ、いったん立ち止まる。「東洋思想」の教え
── SDGsの17のゴールのひとつに、「ディーセント・ワーク (Decent Work)」があります。"働きがいのある人間らしい仕事"という意味ですが、これを実現するため、IDGsやシステム思考とともに「東洋思想」を取り入れる企業も増えているそうですね。 東洋思想は幅が広く、仏教もインド哲学もアジアの思想も含まれるのですが、私は中国の古典の論語や中庸、老子といった儒教、道教の教えを参考にしています。中国古典では「慎独(=しんどく)」という言葉があるのですが、簡単に言えば『誰も見ていないからといってだらしない格好をしたり、悪いことをしたりしてはダメだよ』ということです。 日本でも、昔から「お天道様が見ているから悪いことをしてはいけない」とよく言われますよね。 ── たしかに「お天道様」の考え方は自分の中に根付いていますね。なんというか、まわりに誰もいなくても常に誰かに見張られているような気になります。 何が正しくて、何をしてはいけないのかは、自分と他者の間だけのことではなく、人間としてあるべき姿が宇宙の根源的な法則として定まっている。それが東洋思想にもある考え方なんです。 短期的な利を追った結果、いまの環境問題や社会問題が出ているのだとしたら、本当にそれでよいのだろうか。自分は儲かるけど、それでのちに困ることはないか。天の道として正しいことなのか。そうやって自分に問い直し、自分を見つめ直すことができるのが東洋思想の強みだと思います。 ── 実は「東洋思想」がなぜSDGsと関連付けられるのかピンときていませんでしたが、ようやく合点がいきました。一度立ち止まって「いまやっていることが正解なのか」と見つめ直したり、長期的な視点で物事を捉えたり。IDGsやシステム思考とも通ずるところがあるんですね! しかし一方で、「慎独」や「お天道様」のような考え方がだんだん薄れてきているのも事実です。相手がいなければよいとか、相手の同意を得られればよいと考えてしまう人も少なくありません。だからこそあらためて「東洋思想」が注目され、単に利益の最大化を求めるのではなく、本当は何が大事なのか、何のために生まれてきたのかを問い直す人が増えてきたのだと思います。 ── SDGsをなかなか"自分事"として捉えられない人も多いと思いますが、今日のお話には、そこから脱するためのヒントがあったと思います。 SDGsの内容をよく知らないという人は、17のゴールの中で自分が興味のあるものについて調べてみるだけでもよいと思います。ゴールそのものの意味、それに関して日本はどういう現状で、海外ではどうなのか。実際にどういう取り組みが行われているのか。 まずは知り、おもしろいと感じたら自分でやってみたり、誰かと話してみたりすればよいのではないでしょうか。とにかく関心を持ち、大事だと思うアンテナを磨いてほしいです。眉間にしわを寄せて「やらなきゃいけない」と思うと続かなくなってしまうので、「楽しむ」ことが一番大事だと思います。 ------------ 「流行っているから」ではなく、あくまで自分の関心を原動力に。「関心を掘り下げていれば、そこから導かれるように必要な本や人に出会います。すぐに理解を得られなくともいつか理解者が現れるので、地道でも続けることが大事です」と枝廣さんは話します。 レジ袋を1枚もらわなかったくらいで......自分がどれだけサステナブルの社会の実現に貢献できているか、なかなか実感が湧きづらいのも事実。ですが、ひとりのその小さな行動が、未来を大きく変えるきっかけに繋がっています。国連で「SDGs」が採択されておよそ10年。この節目に、あらためて自分を、そして自分を取り巻く環境を見つめ直してみてはどうでしょうか。
取材・執筆 : 明日陽樹(TOMOLO) 取材 : 久保直樹 編集 : 友光だんご(Huuuu) イラスト : ヤマグチナナコ