「儲かるからSDGs」だけでは続かない。サステナブルな社会実現のヒントを枝廣淳子さんに聞く
── なるほど。SDGsにも、企業の成長にも「IDGs」が有効なんですね。いずれにしても、「物事を長期的な視点で捉える力」が大事なのだとわかりました。 特に日本は、多くの企業が分岐点にいます。これまでの成功モデルが通用しなくなり、新規開発をしないといけない。だけどそういう形では育成されていないので、ただ上から「新規事業を作れ」と言われても困る。単にスキルを教えるとかいうレベルではなくて、もう一歩先の育成が大事だという認識は出てきていると感じます。 ── 「もう一歩先」というのは、具体的にどういったものですか? 大企業の方と話していると、スキルの修得のみならず、挑戦しようとする意欲や変化を恐れない心、失敗しても次に向かっていける力を持った社員を増やしていかないといけないというのが繰り返し出てくるテーマのようです。ただ、これは余裕のある大企業だからかもしれませんね。中小企業は明日の売り上げのために奔走しているところも多々ありますし、余裕がないというのも本音だと思います。 ── 「挑戦」「変化」「失敗」。どの言葉も、日本人の気質には馴染まないというか、むしろ避けてきたもののように感じます。内面からの変化が求められている時代ということですね。
行動を起こし、仲間を探す。成功事例の積み重ねが世界を変える
── 「システム思考」という言葉もよく使われるようになった印象です。先ほども「つながり」という言葉が出ましたが、「システム思考」も「物事を個別に捉えるのではなく、全体のつながりや流れを意識しよう」という考え方ですよね。 「つながり」というと、みなさん空間軸のみで考えることが多いのですが、システム思考で大事なのは、時間軸も伸ばすこと。自分たちがよかれと思ってやったことが、次の世代、さらに次の世代に悪影響を及ぼすかもしれません。空間軸と時間軸の両方でつながりを見ることで、本質的な解決法を見出し、対症療法の弊害をなくす。これがサステナブルな社会の実現には必須です。 ── 中小企業の話とも少し重なりますが、頭ではわかっていても、将来のことより目先のことを意識してしまう気持ちも理解できます。未来の時間軸を考える余裕がないというか。 右肩上がりの経済成長が続くわけではないと、いろんな国がいろんなタイミングで認識したはずです。日本でいえば、バブル崩壊や東日本大震災ですね。 そういった機会が一度でもあれば「今のままの社会でいいのか」と悟ることができる人がいる一方で、何度も経験してボディブローのようにじわじわ実感する人もいます。いまはまだ経済や社会の仕組みが右肩上がりを前提としているので、あちこちでハレーションや乖離が生まれ、無力感に苛まれるのではないでしょうか。 ── 社会の仕組みを変えるのは、個人レベルではなかなか難しいと思います。そんな中でも私たちにできることはありますか? 小さな成功事例を作ることですね。大きなシステムをいきなり変えようとすると、風車に向かうドン・キホーテのようになってしまいます。その小さな成功を積み重ね、周囲の人に見せることが重要です。「変えたい」と願う人が1人では厳しいかもしれませんが、同じ考えを持つ仲間が2人以上いれば可能になると私は考えます。 ── 小さな成功事例が積み重なって、大きな変化をもたらした例があれば、教えていただきたいです。 スペインの例がわかりやすいかもしれませんね。温暖化対策をしないといけないとなったとき、スペインのバルセロナが新築の家を建てる際は必ず太陽熱の設備を入れるという条例を作りました。それが徐々に他の都市にも広がって、真似をした都市が70になったタイミングで、スペインが国として法律化したんです。 ── なるほど。最初の一歩を踏み出すこと、何か大きなものに立ち向かうことは勇気のいることですが、道な努力がのちに社会・世界を変えるんですね。 ローカルであれ企業であれ、小さな事例が広がって、最後に大きな仕組みを変える。私はそれしかないと思っています。「こっちのほうが主流だよ」という世界を作っていくんです。行動を起こすこと、そして2人目の仲間を作ること。それこそが人を動かします。