「儲かるからSDGs」だけでは続かない。サステナブルな社会実現のヒントを枝廣淳子さんに聞く
CO2を減らすことに成功しても、それによって生物多様性が失われたり、地域社会が壊れてしまったり。単純にひとつのゴールを目指せばよいという話ではなく、難易度が上がり、これまでのやり方で、ある目標を定めて、そこを最大化・最小化するだけではうまくいかなくなってきたのです。 ── 「足りていない」という空気が広がっているのは、海外でも同じなのでしょうか。 歩みの遅さは世界中が抱えている課題ですが、特に日本では顕著です。さまざまな国に由来する移民がいて、いろんな生活レベルの人が共存する他国に比べ、日本は比較的、同一性が高い国民です。もちろん日本でも格差や多様な人種は存在するものの、それゆえに多様性に意識が向きにくいのではないでしょうか。 ── つまり日本人の国民性が悪いほうに働いて、SDGsが進まないということですか?
多様性に加えて、気候変動についても日本人の関心が高まらないのは、「天災」が関係しているのではないかと思います。日本では昔から、地震や津波、火山の噴火など、多くの天災を経験してきました。その分、天災による変化を甘んじて受け入れ、その上でしなやかに生きていく術を自ずと身に付けていると思います。 気温が上がろうと、雨の降り方が厳しくなろうと、問題そのものを解決するのではなく、自分たちが適応してうまく生きていこうとする。そんな文化的な背景が大きいかもしれませんね。しかし、ときには積極的にアクションすべきこともあるはずです。
「SDGs」の枠を超え、ビジネスシーンでも注目される「IDGs」
── 最近では「IDGs(Inner Development Goals)」という言葉も見かけます。2020年に北欧で生まれた言葉で、「SDGsへの課題感に向けて生まれたフレームワーク」とのことですが、詳しく教えていただきたいです。 「IDGs」は、サステナブルな社会のためには内面の発達、つまり人が変わることが重要だという認識から生まれました。人が何によって動くかについてはいろんな理論がありますが、外からの報酬、たとえばお金が儲かる、地位が上がるといったことを求める人がいます。一方で、「これが正しいことだから」と自己実現に近い意味で幸せになれるという人もいます。 よく『内在的か、外在的か』という言い方をされますが、金銭で動く人は収入がなくなった途端にやめてしまう可能性がありますよね。「持続可能」を実現するには、内面から正しいことを正しいと認め、何が正しいかを見極める目を養い、正しいと思ったことに向かって行動を起こせる内面を磨く必要がある。元々はSDGsを進めるために作られた「IDGs」ですが、すべての人に役立つフレームワークだと思います。 ── 実際、私のまわりでも「企業の内側から変えないといけない」という考えを持つ人が増えている気がします。 最近では「パーパス経営」とよく聞きますが、企業と従業員のパーパスの整合性が取れたときにこそ、一番大きな力が発揮できます。単に短期的な利益を求めて商売するのではなく、よき社会を作りたい、そのためにやっているというパーパスが同軸になったときに企業と個人の両方が成長し、幸せになると思っています。 いま自分たちがやっていることが短期的なことだったとして、「本当はこうしたほうがよい」と思ったら、実際に進めていく覚悟や決意を持てる力が必要です。また大なり小なり、実効性をともなう形でSDGsを進めるには、物事の一面ではなくつながりを認識する力も大事。おそらくこれらの力を育むことに「IDGs」は役立つでしょう。