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古典美術と現代美術が出会うとき。国立新美術館「古典×現代2020」の展示が公開

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美術手帖

 「本展はいままでにない意欲的な試み。幅広い方々にご来館いただき、想定以上の親和性を味わってもらえれば」。国立新美術館 館長・逢坂恵理子がそう意気込む展覧会が、現在国立新美術館で開幕を待っている。  「古典×現代2020」と題された本展は、本来であれば3月11日に開幕予定だった。しかし、新型コロナウイルスによる臨時休館によって開幕は延期。4月12日現在、開幕日は決定していない。   そうした状況下、同館は報道関係者のみを対象に展覧会を公開(3月24日)。ここではその様子をお届けする。  本展は、仏像や刀剣、日本画といった古来からある日本美術と8組の現代の作家たちが共演するもの。出品作品は、古典美術は曾我蕭白、尾形乾山、円空、仙厓、葛飾北斎 などをはじめ、鎌倉時代の仏像や、伊藤若冲をはじめとする江戸時代の花鳥画、刀剣の名品が並ぶ。  これらに呼応する現代作家は、川内倫子、鴻池朋子、しりあがり寿、菅木志雄、棚田康司、田根剛、皆川明、横尾忠則の8作家だ。  展覧会は、古典美術を日本最古の美術雑誌『國華』主幹の小林忠が総監修。古典美術の作品が国立新美術館に並ぶのは、今回が初めてとなる。小林は、「この展覧会だけは現場で佇まないとエキサイティングな経験ができない」と開幕の延期に悔しさをにじませる。  いっぽう、同館学芸課長・長屋光枝は、「古美術はいまを生きる私たちのものでもある」としつつ、「そうしたものに現代作家たちがいかにアプローチするかを全面に出している。美術館の使命は視点を相対化し、世界観を広げるのを手伝う場所だ」とその狙いを語った。  では、そのアプローチが実際にはどのように展覧会として現れているのか、8組の共演をそれぞれ見ていこう。  会場冒頭を飾るのは、「もの派」を代表するアーティスト・菅木志雄と仙厓の組み合わせだ。展示室奥には、仙厓の《円相図》(19世紀)が見える。これに応答した菅は、円形のステンレス板と木や石などを組み合わせた円形の《支空》(1985)を再制作。《円相図》の手前に配置した。  また、新作として四角をかたどった《縁空》(2020)も展示。仙厓は、「○」「△」「□」のみを描いた作品《○△□(まるさんかくしかく)》を残しているが、菅はそれをもじるかたちで「○」「△」「□」を展示室内に再現している。「△」は、《支空》の内部に含まれているのがわかるだろうか。  川内倫子は、江戸時代の花鳥画と対応するように写真作品と映像を見せる。花鳥画のパートを監修した北斎館館長・安村敏信は、カタログのなかで「川内倫子の作品には、身近な小鳥や移りゆくものに宿る生命感、その背後に潜む無常感が表されている」とし、「そこで想起されるのは18世紀京都で活躍した伊藤若冲である」とする。  身近な動植物を描いた花鳥画。本展では、安村が言及する伊藤若冲から始まり、河村若芝、岡本秋暉といった絵師たちの作品を囲むように、川内の写真作品が並ぶ。  独自の一木造りを開拓した江戸時代の僧・円空。その作品と調和するように展示をつくりあげたのが、同じく一木造りにこだわりながら作品を生み出す彫刻家・棚田康司だ。  自然木の特性をいかし、民衆のために仏を彫り続けた円空。会場では、高さ2メートルを超える《護法神立像》(江戸時代)など、9点の円空仏が並ぶ。これだけでも見ごたえがあるが、棚田による神秘的な少年・少女の像たちが加わることで、300年以上の時を経ても変わらない人間の営みを体感することができる。棚田は、「セッティングしていくうちに気持ちが高まっていった。日本人としての文化の底力を感じる」と語っている。  巨大な展示室いっぱいに広がる《皮緞帳》(2015)で圧倒的な存在感を示すのは、鴻池朋子。鴻池は今回、本来は1枚続きで展示される同作をふたつに分け、中央に間を設けた。牛革でできた《皮緞帳》の間には、銀色の振り子が揺れる。  そして鴻池作品の下に広がる、平安から江戸時代の刀剣の数々。ふたつに分断された《皮緞帳》は、物を「切る」という刀剣本来の役割に立ち返ったことから生まれたインスタレーションだ。  開幕前から注目されていた建築家・田根剛は、独自のアプローチで仏像と向き合った。滋賀県にある古刹・西明寺の本尊である薬師如来の脇侍である《日光菩薩立像》と《月光菩薩立像》(ともに鎌倉時代)は、それぞれ太陽と月を象徴するもの。  田根は、西明寺とこの二躯の菩薩像を綿密にリサーチ。数々の危機を乗り越えてきた菩薩像と向き合い、光と祈りをテーマとするインスタレーションをつくりあげた。暗闇の部屋に浮かび上がる二躯の菩薩は、日の出から日没までを繰り返すような光で照らし出される。  本展でもっともユーモラスな展示を見せてくれるのは、漫画家のしりあがり寿だ。「昔の作家たちは疫病と闘い素晴らしいものを残してきた。コロナに負けず、良いものをつくる。それが時空を超えて残る」。そう語るしりあがりがコラボレーションしたのは、自身が尊敬するという葛飾北斎。  北斎の代表作のひとつである《冨嶽三十六景》(江戸時代)に着想を得、パロディした《ちょっと可笑しなほぼ三十六景》(2017)をずらりと展示する。漫画家ならではの発想と遊び心に注目したい。  尾形光琳の弟として知られる江戸時代の陶工・尾形乾山。花のかたちをそのままかたどった器や、梅の文様で覆い尽くした蓋物など、そのデザインはいまなお輝きを失わない。この乾山に共鳴したのが、昨年、東京都現代美術館で大規模展覧会を行った「ミナ ペルホネン」デザイナーの皆川明だ。  皆川は、乾山の作品について「私たちのものづくりも、工房の人たちと一緒に行うという意味で類似している。長い時間軸のなかで考えれば、300年は短いと思えるほどものづくりへの欲求は絶え間なく続いていくんだなと感じた」と語っている。皆川のテキスタイルや洋服、あるいはそのハギレは、乾山作品と見事な融合を見せる。  本展最後を飾るのは、曾我蕭白と横尾忠則だ。1970年代より蕭白に魅了され、作品でもオマージュを捧げてきた横尾。  本展では、蕭白の《寒山拾得図屏風》(江戸時代)などとともに、横尾が初めて蕭白を引用した《ニューオリンズからの使者》(1994)や、新作となる《寒山拾得2020》(2019)を見ることができる。

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