新海誠に聞く『鬼滅の刃』の偉業。コロナ禍での映画制作「次回作は終末後の物語」
テレビ朝日が“withコロナ時代”に取り組む『未来をここからプロジェクト』。同プロジェクトでは、「未来への入り口」というコンセプトで、多岐にわたる分野で時代の最先端を走る“人”を特集する企画「未来を人から」を展開している。 第7回に登場したのは、歴史に残る大ヒット映画『君の名は。』、『天気の子』などを手がけたアニメーション監督の新海誠氏。 大学卒業後はゲーム会社に勤めながら、独学でアニメ作品の制作を開始。一般的にアニメづくりには大勢のスタッフが必要とされるが、新海氏の初期の作品は監督や脚本にとどまらず、作画や編集などを含めて彼ひとりの手によって生み出されてきた。 自主制作の作品ながら大きな反響を呼び、その後も作品をつくり続けたなかで、2016年公開の『君の名は。』が250億円を超える興行収入を叩き出し、日本映画として歴代2位(当時)の国民的ヒットとなる。2019年公開の『天気の子』も同じく大ヒットとなり、日本のアニメ作品として『もののけ姫』以来の米アカデミー賞国際長編映画部門(旧外国語映画賞)ノミネート候補作品となった。 “新海ワールド”といわれる緻密で繊細な映像美と世界観で人々を魅了する新海氏は、これからの未来をどう見ているのか――。
世界が決定的に変わってしまうような予感があった
かつて自宅の机で、たったひとりでアニメ制作を始めた新海氏。環境が変わった今も、約20年にわたって彼が一貫して描き続けるテーマがある。 「アニメーションでは何でも描けるんですけど、僕は現代社会が出てくる話を描いていきたいし、自分の役割はそれでいいと思っています。僕自身も観客の一部なわけで、観客と自分自身は同じものだと思う。自分が見たいと思うものをつくることが、エンターテインメント全体への貢献だと思うんです」 2019年夏に公開された最新作『天気の子』は、観客動員数1000万人を突破。同年における国内の興行収入で1位を記録した。 舞台は、異常気象で雨が降り続く東京。離島から家出してきた主人公・帆高(ほだか)と、不思議な力を持つ少女・陽菜(ひな)が出会い、彼らの活動が世界に大きな影響を与えてしまう物語だ。 「映画の中で世界の形が変わってしまうんですね。誰も知らないけど、自分のせいで、世界の形が変わってしまった。そのことをキャラクターはどういう風に受け止めるんだろうと、最後の最後まで悩みました。ラストシーンはプロデューサーやRADWIMPSの野田洋次郎さんと一緒に最後の最後まで悩んだような気がしますね」 ラストシーンに関する打ち合わせを収めた当時の映像にて、新海氏はこのような言葉を残している。 「この映画は、災害のニュースなどもあるなかで公開される可能性も高いと思うんですよね。傷つく人もいるだろうけど、お客さんには前向きな気持ちで劇場を出てほしい。今回(主人公の)帆高には『俺が(世界の形を)変えたんじゃないか』と思ってほしいし、お客さんもそこに、『あ、そうだよね』と思ってほしいんです」 この作品で“世界が変わってしまう”物語を描いた理由とはなにか。 「世界が決定的に変わってしまうような予感が、はっきりとあったからなんです。このままなわけがない、平穏無事に生活が続くわけじゃない。どこか明快には言えないんだけど、漠然とした不安みたいな感覚って、ずっとみんなの心の中にあり続けてきたと思うんですよね。今もあると思うんです。 社会の形が変わるということは、人の心の形も変わる。それを、その人たちに見てもらうための映画ですから、映画の形も年々少しずつ変わっている気がします。でも、それがコロナウイルスのような形でもたらされるとは、全く考えもつかなかったわけですよね。 映画ってつくるのに1年、2年、3年かかるから、少し先のことを考えてつくるんですけど、本当に大事な巨大な変化というのは、僕たちの想像を超えた部分にある。今回コロナウイルスであらためてそう思いました」 日本でコロナウイルスにより影響が広がり始めた頃、新海氏は新作映画の脚本執筆の真っ最中だったという。 「今、新作映画をつくっているのですが、ちょうど日本が緊急事態宣言下にあった時期に脚本を書いていたんですね。そういう意味では拭い去りようもない、そのときのムードが脚本に刻み込まれていると思います。具体的な影響で言えば、まだたくさんのスタッフが1ヵ所に集まってつくり始める前の段階なので、基本的には在宅ワークなんですよね。 ひたすら自宅で自分のデスクに向かって、何かを書き続けるのが映画制作の前半。そういう意味では、仕事環境がそこまで大きく変化しているわけではないです」