人事リーダーが語り合う いま企業が実践すべき「組織開発」の最前線
近年、大きな注目を集めている「組織開発」。組織内のコミュニケーションを活性化させるだけにとどまらず、イノベーティブな組織風土へと改革し、従業員の働きがいを向上させ、新たな価値を生むために取り組みを進める企業も増えている。人事はどのような視点を持って組織開発と向き合っていくべきなのか。2020年5月にオンラインで開催された人事の一大イベント「HRカンファレンス」で、日本マクドナルド・落合亨氏、参天製薬・藤間美樹氏、明治大学専門職大学院教授・野田稔氏が、これからの組織開発について語り合った。 (登壇者) 落合 亨氏(日本マクドナルド株式会社 人事本部 上席執行役員 チーフ・ピープル・オフィサー) 藤間 美樹氏(参天製薬株式会社 理事 人事本部) 野田 稔氏(明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授)
野田稔氏によるプレゼンテーション:「分析的アプローチ」と「対話的アプローチ」を使い分ける
本セッションの冒頭では、組織論および組織開発論を専門とする野田氏のプレゼンテーションが行われた。野田氏は組織開発を「健全さ、効果性、自己革新力を高めるために組織を理解し、発展させ、変革させていく計画的で協働的な過程」と定義する。 「単に人が集まっただけでは健全な組織にはなりません。健全な組織を作るためには意図的な働きかけが必要です。組織とは、インプットを受けてアウトプットに変換していく、ある種のマシンであるとも言えます。『アウトプット/インプット』の式で表される結果が、生産性と呼ばれるものです」 昨今の働き方改革では、多くの企業が「インプットを減らしてアウトプットを保つ」ことで生産性向上を図ろうとしてきた。しかしこれからの組織開発では、「いかにしてアウトプットを増やすかということが必定」と野田氏はいう。 「私は最近、働き方改革という言葉をあまり使っていません。それよりも大切なのは『成果の出し方改革』だと考えています。これまでの延長線上では社会も企業も存続できません。劇的なアウトプットの増加が必要なのです。これを一般的な言葉でイノベーションと言いますが、私はイノベーションとは全社活動だと思っています。研究室から生まれるシーズイノベーションだけではなく、従業員一人ひとりが顧客の負を解消するために心を尽くすことこそが大切なのではないでしょうか」 野田氏は、働きやすさの追求に重きを置いてきた働き方改革の傾向にも疑問を投げかける。 「これからは仕事のやりがいや新しい価値を創造し、従業員が『ありがとう』の言葉を得られる機会を増やしていく必要があります。ここにエンゲージメント向上の鍵があります」 では具体的に、組織開発はどのようにして進めていくべきなのか。野田氏はその手法として、「分析的アプローチ」と「対話的アプローチ」の2種類を紹介する。 分析的アプローチでは、内部もしくは外部の専門家が組織をあらかじめ分析し、アンケートやインタビューなどを行い、組織内の問題を明らかにする。その上でリーダー層が中心となってさまざまな施策を進めていく。いわば演繹的な方法だ。 一方の対話的アプローチでは、ボトムアップのアクションにつなげることを目的としている。従業員一人ひとりが何度も深い対話を繰り返し、その中から変革へのアイデアやエネルギーが生み出されていく。 「この二つのアプローチを必要に応じて使い分けていくことが大切」と野田氏は語る。 「それぞれに弱みがあります。分析的アプローチの弱点があるとすれば、従業員が自分ごと化しにくいことでしょう。一方で対話型アプローチには、従業員一人ひとりの目的意識が共有されていないと変革が進みにくいという弱点があります」 経営層やリーダー層だけでなく、より広範囲の従業員を巻き込んで進められる対話型アプローチは、「一人ひとりの市民度が試される取り組み」でもあるという。それぞれが対話を楽しみ、人の話をよく聞いて否定することなく、どんどん手を動かして書いたり描いたりすることで新しいアイデアが生まれる。大前提としてはチームの中に心理的安全性があること、ありのままの自分でいても大丈夫なチームであることが必要だ。その上で、一人ひとりが自主・自律の精神を持ち、自分の頭で考える習慣を持たなければならない。 「私がフェローを務めていたリクルートには、社内で多くの従業員が日常的に交わす口癖がありました。それは『お前はどうしたいの?』というもの。上司や同僚から頻繁に問われるので、全員が自分の頭で考えざるを得なくなるわけです。このようにして日常の口癖を変え、組織のコンテキストを変えて、正しい価値観を定着させていくことも大切だと考えています」