中国の大ヒットRPG「黒神話:悟空」、影の立役者は「モーションキャプチャー」技術
中国発の超大作RPG「黒神話:悟空」が空前の大ヒットを続けている。主人公「天命人」のモーションアクターを務めたkyle氏は一躍脚光を浴び、SNSの小紅書(RED)、ショート動画アプリの抖音(Douyin)と快手(Kuaishou)で計10万人近くのフォロワーを獲得した。そして今、同タイトルのモーションキャプチャーの3分の2を担当したスタートアップ企業「上海降世網絡科技(Shanghai Jiangshi Network Technology)」にも、スポットライトが当たり始めている。
上海降世は2017年に設立され、ゲームや映画・テレビ作品の3Dモーションキャプチャーとデータ処理を手がけてきた。創業者の李陽一氏は「モーションアクターは特別な存在で、武術やダンスあるいは2Dコンテンツのキャラクターの再現力など総合的な能力が求められる」と語る。 中国ではモーションアクターの資質を備える俳優がまだ少ないにもかかわらず、モーションキャプチャー技術が成熟しつつあり、モーションアクターに対する要求も高まる一方だという。上海降世は優れたモーションアクターを世に送り出すため、上海戯曲学院などの俳優養成校と提携し、学生たちに実習の場を提供している。 モーションキャプチャーでは、俳優の動きを捕捉してデータ処理を加え、役柄のイメージどおりの動きを再現する。各フレームを手作業で調整する伝統的な動画制作よりも効率が高いため、映画・テレビ作品やゲーム、広告などの分野で広く用いられている。 とはいえ、ゲームのキャラクターをモーションアクターの表現力だけで再現することはできない。李氏は「モーションキャプチャーデータを処理して、はじめて作品レベルの基準に到達する」とした上で、「例えばゲームキャラが巨大な武器を振り回すシーンでは、モーションアクターが実際に重たい武器を持ってしまうとスムーズに動けなくなってしまう。流れるような動きと重量感を表現するためには、極めて細やかなデータ処理が必要になる」と話す。 モーションキャプチャーで手足の動きを捕捉するのは比較的簡単だが、顔の表情を捕捉するのは難しい。上海降世は、表情を完璧に捕捉するプロセスを編み出した。例えば「黒神話:悟空」で猪八戒が登場するシーンの3D動画は、同社が制作した。 上海降世は「黒神話:悟空」の開発元「遊戯科学(Game Science)」のほか、テンセントやネットイースなどのゲームパブリッシャー大手と提携。テンセントの「王者栄耀:世界(Honor of Kings: World)」「和平精英(Game for Peace)」「天涯明月刀」「無限暖暖(Infinity Nikki)」やネットイースの「永劫無間(NARAKA: BLADEPOINT)」「逆水寒(Justice)」など注目のタイトルでモーションキャプチャーを担当している。 海外ではすでにAAAタイトル(多額の開発費を投じた超大作ゲーム)の開発パイプラインが成熟し、モーションキャプチャーが制作フローに欠かせない重要なプロセスとなっている。AAAタイトルの制作ニーズが高まる中国でも、モーションキャプチャー業界が大きく発展していくのは間違いないだろう。