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大阪「フジ住宅」レイハラ訴訟で原告側勝訴

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週刊金曜日

 人種・民族差別をめぐる判例は、被害当事者の身を捩る闘いで少しずつ、確実に前進してきた。反ヘイト裁判の嚆矢、京都朝鮮学校襲撃事件(原告勝訴判決が2014年確定)、徳島県教組襲撃事件(同16年確定)、民族差別と女性差別の複合被害を認めたヘイトスピーチ裁判(同18年確定)など。  7月2日、大阪地裁堺支部(中垣内健治裁判長、判決は代読)で新たな判断が示された。東証一部上場の不動産会社・フジ住宅(大阪府岸和田市)を舞台にしたレイシャルハラスメントを巡る民事訴訟だ。同社では今井光郎会長の主導でヘイト本や歴史改竄本のコピー、それに迎合する従業員の感想文などが繰り返し社内配布されたほか、会社ぐるみで自治体教育委員会に育鵬社などの右派教科書採択を求める運動も行なわれた。  耐えかねたパート従業員の女性(50代、在日韓国人3世)が15年8月、今井会長と同社に3300万円の損害賠償を求めて提訴した。彼女は社に留まっての闘いを決断。提訴後には、「恩情を仇で返すバカ者」など、従業員が原告を非難する大量の感想文が配布された(本誌1月24日号参照)。  原告側は「配布文書はヘイトスピーチを含んでいる」「職場で差別的言動に晒されない権利があり、被告は職場環境配慮義務に反している」などと主張していた。  判決で大阪地裁は、被告に連帯して110万円の支払いを命じた。「社会的に許容できる範囲を超えている」などとして違法性を認めたのは「嫌韓嫌中本などヘイト文書の執拗な配布」「教科書採択への動員」「提訴後の原告への非難」の3点である。  文書配布については内容の侮蔑性や攻撃性、多い時は月1000枚に達し、連日配られた時期もあった執拗さに言及。同じ国籍や出自を持つ者に「著しい侮辱」を感じさせ「名誉感情を害するもの」などと認定した。加えて国籍による差別を禁じた「労働基準法」第3条をもとに、「国籍によって差別的取り扱いを受けるおそれがないという労働者の内心の静穏」は、一般的な内心の静穏以上に保護されるべき人格的利益と判断。被告の行為で原告は現実的な危惧感を抱かされているなどとした。  教科書採択運動に関しては「党派的な運動の一環」で業務と無関係と断定。「労働者である原告の政治的な思想・信条の自由を侵害する差別的取り扱いをともなう」と、原告の人格的利益の侵害を認めた。さらに提訴後の原告への非難に対しては、「疎外感」を与え「裁判を受ける権利を抑圧するとともに名誉感情を害するなどの深刻な不利益」を与えたと指弾した。 【判決には問題点も】 「心の痛みを汲み取ってくれたと思う。この判決を貰って、信じてよかったと。今やったらまだ、日本の社会にも、希望を一緒に叶えてくれる人がきっといると思って一歩二歩踏み出して、先生(弁護士)たちとも、みなさん(支援者)とも出会えた。ちょっと希望を確信に変えることができた。この成果をいかに広げていけるか」  コロナ禍でZoom開催の報告集会。それでも集まった約30人の支援者を前に原告は語った。そこには喜びと同時に明日からその会社で働く彼女のリアルがあった。 「職場で差別的言動に晒されない権利」を裁判所が認めたことは大きな前進だ。労働事件としては「満額回答」で、判決は今後の武器になるだろう。会社側は控訴を表明し、闘いは高裁に移る。  だが問題もある。地裁は原告を名指しした差別ではないなどとして被害を過小評価した。属性への攻撃だからこそ広く甚大な被害を与えるのが差別でありヘイトスピーチなのだが、その本質に裁判官は向き合わなかった。ヘイト塗れの職場で働く彼女の恐怖への想像力も感じられない。ここを突破することが次の目標だろう。  そして見えた課題は裁判制度の限界だ。時間的・経済的負担はもちろん相手の主張という差別言説と向き合う原告の精神的負担は大きすぎる。まして職場に留まった彼女の心労はいかほどか。迅速で負担の少ない救済制度が必要だ。 (中村一成・ジャーナリスト、2020年7月10日号)

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