日本で唯一の黒漆塗り! 松本城の天守が「黒く美しく」艶めく理由
北アルプスを借景に、凛とたたずむ松本城の国宝天守群。黒壁と白壁のコントラストが青い空に映え、絵画のような美しさです。黒壁に独特の重厚感があるのは、今となっては全国で唯一、黒漆が塗られているから。 【画像】松本城の写真をすべて見る(8枚) 松江城天守や岡山城天守、広島城天守など黒壁の天守は全国にいくつもありますが、今でも黒漆が塗られているのは松本城天守だけです。
毎年欠かさず化粧直し
天守壁面の漆は、毎年9~10月に塗り替えられています。この季節に塗り替えが行われているのは、科学的な理由があります。 漆の主成分はウルシオールという樹脂分。空気中の水分を取り込むことで乾くため、乾燥させるには気温20~25℃、湿度60~65パーセントという条件が求められます。野ざらしの天守は漆器などのように湿度調節できる乾燥室が使えないため、気象条件を満たす秋口に塗り替えられるのです。夏の紫外線で傷んだ漆は、秋に化粧直しされ、冬支度を整えます。
信長や秀吉が用いるも流行らず
漆の耐久性は驚異的で、酸やアルカリ、塩分、アルコールに強く、耐水性、断熱性、防腐性にすぐれます。7~11世紀頃に築かれた古代城柵などから出土する、漆の入った容器の蓋紙に廃棄文書を使用した「漆紙文書」に書かれた文字が現在でも確認できるのは、染み込んだ漆の硬化作用によって腐食を免れたから。縄文時代から土器の接着や装飾に漆が使われていたのも、その耐久性あってのことです。
天守壁面を守る塗料として申し分ない素材ですが、唯一にして最大の弱点は紫外線です。松本城天守の壁面も、紫外線に年中さらされているため1年もすれば傷みが生じ、長くても3~5年で耐久力が尽きてしまいます。松本城天守の漆が毎年欠かさず塗り替えられているのは、そのためなのです。 実は、黒漆塗りの天守は、織田信長が築いた安土城(滋賀県近江八幡市)や豊臣秀吉が築いた大坂城(大阪府大阪市)をはじめ、豊臣の家臣の城にしか存在しませんでした。高価な素材である上にメンテナンスに手間と費用がかかるとなれば、定番化されなかったのも頷けるところでしょう。