本郷和人 瀬名が夢想した「東国に徳川・武田・北条らが繋がった大国を作る」の実現可能性とは?「ヤボは承知」でひとこと言わせてもらえば
松本潤さん演じる徳川家康がいかに戦国の世を生き抜き、天下統一を成し遂げたのかを古沢良太さんの脚本で巧みに描くNHK大河ドラマ『どうする家康』(総合、日曜午後8時ほか)。第24回では、瀬名(有村架純さん)と信康(細田佳央太さん)が各地に密書を送り、武田方をはじめ多くの者が築山を訪ねていることを知った家康。苦悶の末、家康は数正(松重豊さん)らと共に築山へと踏み込むが――といった話が展開しました。 ドラマ内でついに壮大な構想を明かした築山殿 一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるあのシーンをプレイバック、解説するのが本連載。第43回は「瀬名のはかりごとの実現可能性」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし! * * * * * * * ◆衝撃の展開に動揺を隠せない 前回、「奪い合うのではなく与え合う、慈愛の心で結びついた“大きな国”を東国に作り上げる」という、瀬名姫の“はかりごと”がついに明かされました。 すると家康はそれを聞き入れて勝頼(眞栄田郷敦さん)と手を結び、信長にばれないよう、秘密裡に事を進めて――。 すごい話でしたね。衝撃の展開に対して、ネットで飛び交う感想は賛否両論のようですが、ぼくも動揺を隠せません。ええっと、何を書こうか…。 ぼくの先生である石井進の兄弟子に、網野善彦(1928~2004)という方がいました。日本中世史の研究者でしたが、中世史を足場として日本史全体を俯瞰し、さらには歴史学すら超えて、日本とは何か、を論じることができた、戦後の人文学を代表する研究者でした。 網野先生が一躍脚光を浴びることになった名著が『無縁・公界・楽――日本中世の自由と平和』(平凡社選書、1978年)です。増補版が1987年に出版され、今は1996年に平凡社ライブラリーに収められたものを読むことができます。
◆網野善彦先生が主張していたこと この本で網野先生が主張されたことは、中世日本には世俗の権力とは無縁の、庶民によるコミュニティがあったのだ、というものです。 その空間において、人々は自由であり、争いを起こさなかった。つまり平和を尊重していた。お寺、もしくは神社などは、しばしば仏や神の名において、そうした空間(学問的にはアジール、と呼ばれる)の庇護者として機能していました。 ですが、そうした空間を破壊していく権力が出現します。それこそが戦国大名です。 戦国大名は、自分の領土に、自由と平和を享受する人々が存在することを許しませんでした。領国の全ての人に対し、戦国大名権力に屈服することを要求したのです。 大名の強大な支配は人々を戦争に駆り立て、日常生活を拘束しました。人々の自由と平和は、否定されざるを得なくなった、というストーリーが語られました。
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