福島第1原発処理水放出まで1年 1日130トンずつ増えていく 東電「海に流すしか打つ手ない」 目を奪う巨大タンク群 風評被害続く漁業・水産業者は「反対貫く」が…複雑な心境も
原子力規制委員会は18日、福島第1原発事故で生じた汚染処理水の海洋放出について、安全性に問題はないとする審査書案を了承した。放出開始予定の2023年春まで約1年。第1原発構内には核物質を取り除いた処理水入りの保管タンクが林立、東京電力は「刻一刻と満杯が近づく」と説明する。南日本新聞が加盟する日本記者クラブ(東京)の取材班として今月中旬、準備が進む現地に入った。 【写真】敷地内に並ぶ処理水入りの保管タンク。奥のドーム状の屋根があるのが3号機=福島第1原発(代表撮影)
身分確認や生体認証といった手続きを経て入構、専用バスに乗り込んだ。事故から11年。除染作業が進み、敷地約350万平方メートルのうち96%で防護服や防護マスクが不要になった。この日も私服の上からベストやヘルメット、簡易マスクの“軽装”が許された。車内に置かれた線量計を除けば、工事現場で作業員を運ぶ輸送車といった感じだ。 走りだしてすぐ目を奪われるのが高さ10メートル超の巨大なタンク群だ。溶融核燃料(デブリ)を冷やす水や、周辺を通過した地下水・雨水を集めた「汚染水」の放射性物質を、多核種除去設備(ALPS)を使って除去する。この「処理水」は1日平均約130トン(2021年度)にも上り、1000トン入りタンク1基が8日程度で満杯になる計算だ。 「海に流すしか打つ手がないというのが本音です」とは同行した東電担当者。タンクは1000基超まで増え、敷地面積は斜面や海岸部を除く設置可能エリアを徐々に圧迫。デブリ取り出しなど次の廃炉工程に向けた用地確保も必要で、「タンクの置き場はもうない」と主張する。
海洋放出に突き進む東電が準備を急ぐのが、処理水を沖合1キロ先まで流す「海底トンネル」の新設だ。すでに入り口部分となる「立て坑」の整備に着手、4月下旬には直径3メートルのシールドマシンを据え置いた。放出予定海域を遠くに望みながら、「設備工事着手に向けた地元自治体の同意が得られた後、速やかに取りかかる」と担当者。最新マシンを使えば、数カ月程度で掘り終わるという。 海洋環境への影響が最大の懸念となる。処理水にはALPSでは取り切れない放射性物質トリチウムが含まれる。人体への影響は小さいとされ、九州電力川内原発(薩摩川内市)など全国の原発で希釈され海に流されている。 東電は処理水を大量の海水で薄め、トリチウム濃度を国基準の40分の1未満にしての放出を計画する。それでも漁業者や水産事業者からは「事故直後のような風評被害を再び招く」との声が根強い。東電の高原憲一リスクコミュニケーターは「安全は十分に確保されることを説明し、根気強く理解を求めていくしかない」と話した。