お父ちゃんの命奪ったマダニ感染症、広島の80代男性、体調不良訴え13日後 「あんなに元気だったのに」
広島県呉市の80代男性が6月4日、マダニの媒介するウイルス性感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」に感染し、亡くなった。広島県内で今年、SFTSの死者は初めて。男性が体調不良を訴え、原因が分からない間に容体は急激に悪化し、13日後に亡くなった。「あんなに元気だったお父ちゃんを奪う恐ろしい病原が、身近にいたなんて知らなかった」―。男性の妻は取材に、ぼうぜんとした表情で語った。 【図解】マダニによる主な感染症(媒介ダニや症状)
「熱中症になったようだ」
男性は5月22日、日課の農作業中に「熱中症になったようだ」と一緒にいた妻に伝えた。普段より2時間ほど早い午前11時ごろに帰宅。翌23日、男性の体調は悪化し、下痢をした。熱っぽかったが突然のことに体温計が見当たらず、計測できなかったという。 その翌日も回復せず、近くの病院にかかったが、原因が分からないまま帰宅。妻によると39度近い発熱があり、歩行もままならず、「食べて」と差し出したおかゆも喉を通らなくなった。 26日に入院が決まった。原因が分からず、翌日に転院する頃には意識は遠くなり、転院先の病院名を弱々しく口にするのがやっとだった。 血液検査でSFTSの診断が出たのは31日。男性は血中酸素が低下し、肺に直接酸素を送り込む管を挿入するため麻酔で眠っていた。マダニにかまれた痕は見つからなかった。その後、集中治療室に入り、6月4日午後、亡くなった。 農作業中はムカデやハチに刺されないよう、長袖長ズボンで手袋もしていたという。「掃除から買い物まで何でもする元気な人だった。あまりに突然で、最期の会話も覚えていない」と妻はうなだれる。
6日~2週間程度の潜伏期間
SFTSは2013年に国内初の感染が報告されて以降、全国的に感染が広がっている。広島県内では今年6月24日までに72件の感染が報告されている。感染すると6日から2週間程度の潜伏期間の後、発熱、下痢や嘔吐(おうと)などの消化器症状が出る。 マダニは森林や草地に生息しており、大きさは吸血前で3~4ミリ。県は農作業などマダニにかまれそうな時は、肌の露出を避けて袖口を絞るなど、マダニが入り込むのを防ぐようにと呼びかけている。マダニにかまれた可能性がある中で自覚症状があれば感染を疑い、早めに対処することも鍵となる。 男性と妻は高齢だからと、昨年12月に坂の上の家から平地に引っ越したばかり。「SFTSの怖さを知って対策していれば、もう少し長く一緒にいられたかもしれない。多くの人に気を付けてもらいたい」と涙ながらに話した。