「家族と幸せに米国で暮らしたい」 劣悪な母国離れた不法移民 トランプ氏の「追放」政策に不安隠せず
来年1月20日に就任する米国のトランプ次期大統領が最重要政策の一つとして掲げるのが、不法移民対策だ。国境沿いの警備を強化して流入を防止し、不法滞在者を史上最大規模の強制送還で排除するという。 こういった主張は、移民流入によって職を奪われたり、治安や生活環境が悪化したりするのではと懸念する米国民に広く支持され、トランプ氏の勝因にもなった。 ただあえて危険を冒して不法入国を試みる移民側にも、さまざまな事情がある。母国では政治や経済が混乱し、安心で安全な暮らしを送れなかった人も多い。移民の労働力が米経済を下支えしているのも事実だ。 トランプ氏の「追放」政策におびえる不法移民の素顔を追った。 【一覧】「ペットを食べている」不法移民を巡るトランプ氏の発言
劣悪な祖国離れ、アメリカンドリームを追う
摩天楼が林立する米東部ニューヨーク市のマンハッタン地区。多くの人が行き交う交差点の一角で、南米ベネズエラ出身のアルフォンソさん(36)はアルミ製の丸い容器に入った弁当を売っていた。 他のベネズエラ移民から仕入れた弁当を1個10ドル(約1500円)で売り、そのうち2ドルが手元に入る。「技師の仕事を見つけたい。そして、家族と幸せに米国で暮らしたい」 妻(43)や9~15歳の子ども3人とともに違法に国境を越え、今夏、ニューヨークにやって来た。ベネズエラは独裁色を強める反米左派マドゥロ政権下で経済が混乱。一時は年率13万%に達するハイパーインフレに襲われた。アルフォンソさんは隣国コロンビアに移住した後、さらなる安全と仕事を求めて昨年3月、米国行きを決めた。 三つのリュックに数日分の服や下着、食料などを詰めて家族全員で北上した。 直線距離で約3400キロ、1カ月近くで延べ6カ国を主にバスで縦断した。手元には8000ドル(約120万円)ほどあった。だが、移民を狙って金銭を巻き上げる中米グアテマラの警察官に少なくとも15回遭遇するなどして資金はどんどん減り「最後には一銭も残らなかった」という。 それでも、メキシコ北東部と米南部の国境を流れるリオグランデ川を渡った瞬間は今でも忘れられない。