ホロライブ、にじさんじは国民的スポーツの広告塔に VTuberの“一般化”を裏付ける企業タイアップの高需要
2021年に実施されたパ・リーグとVTuber事務所「ホロライブプロダクション」(以下、ホロライブ)をはじめ、2022年はJリーグとVTuber/バーチャルライバーグループ「にじさんじ」、競輪と事務所に所属していない人気VTuberのコラボが行われるなど、リアルスポーツとVTuberのコラボが続いている。ここ数年でVTuberが企業やバーチャルイベント、eスポーツの広告塔になることは珍しくなくなったが、その規模を着実に拡大している印象がある。 可愛いアイドル衣装で歌い踊る「ホロライブ」所属メンバー 2016年にキズナアイが「バーチャルYouTuber (VTuber)」 と名乗り始めて以降、それに続く新たなVTuberが続々と誕生し、2021年には16,000人以上のVTuberが活動していると発表された(※1)。世代を問わず動画サイトの視聴が一般的となった現在、企業がインフルエンサーになりうるVTuberに注目するのは自然なこと。単純な集客力やソーシャル上での拡散力だけではなく、メディアとしての柔軟性や表現の幅の広さ、視聴者と双方向のやり取りができるといったメリットは元々VTuberにはあった。その中で、「ホロライブ」や「にじさんじ」などに所属するVTuberがチャンネル登録者数を飛躍的に伸ばし、今や事務所に所属する道もポピュラーになった。そういった変化もあって個人ではできなかった、様々な企業や自治体とのタイアップが増えているのだろう。 2019年にキズナアイが日清食品 カップヌードル 味噌、輝夜月が日清焼そばU.F.O.の地上波CMに抜擢され、メジャーな分野でもVTuberのタレント需要が高まっていく。また、VOCALOIDからバーチャルアイドルへと発展した初音ミクが、大塚製薬 ポカリスエットの公式アンバサダーに就任したことも大きな話題となった。バーチャルシンガーのYuNi、VTuber兼歌手活動も行う富士葵、ミライアカリらも参加し、彼女たちが水分補給の大切さを伝えてコラボ楽曲を歌うなど、元祖バーチャルアイドルとVTuberの夢のコラボで『東京マラソン2020』を盛り上げた。バーチャルアイドル/アーティストが、日本のポップカルチャーを象徴する存在として注目を集めた好例だ。 そして、この2年はコロナ禍で生活スタイルが大きく変わり、より広い世代がYouTubeなどの動画サイトを見ることが一般的となった。多くのリアルタレントは感染防止の観点から活動が困難となり、制作側も少人数で周囲に配慮した上で収録しなければいけない状況の中、リモートでどこにでも行けて、自由にコラボ配信ができるVTuberに対して、リアルイベントでの需要も増していく。 2021年に、株式会社ミクシィの次世代エンターテインメント事業本部が提供する共遊型スポーツベッティングサービス「TIPSTAR」が、6月に開催された「第72回高松宮記念杯競輪」と「第27回中野カップレース」を盛り上げるため「VTuber競輪プロジェクト」を立ち上げた。同企画は、歌衣メイカや兎鞠まりなど個人で活躍する人気VTuberを起用し、ファンとともに全国で開催される競輪を盛り上げる日本初のプロジェクト。VTuberが生配信を行う中で、予想会や初心者向けの動画などを展開。競輪を通じた地方創生にも繋がり、コロナ禍だからこそ若いユーザーを増やすビジネスチャンスに転換しようと努めている。 2021年9月にはパ・リーグ6球団と女性VTuberグループ「ホロライブ」がコラボ。宝鐘マリンや兎田ぺこら、夏色まつりなど、ホロライブ所属の12名の人気Vtuberがそれぞれのユニフォームを着たオリジナルグッズを販売したほか、プロ野球ライブ配信「パ・リーグTV」での試合実況配信など、彼女たちの特性を活かした新しい試みでパ・リーグを応援。同年10月3日、オリックス・バファローズ冠協賛試合「hololive day」では球場内でのスタメン発表アナウンスのほか、オリックスのチアダンスチームが球場で踊ると、スクリーンのVTuberたちも一緒に踊る映像が流れるなど、現地で楽しめるパフォーマンスも。ステイホームで需要を高めたVTuberが、YouTubeの外に出て観客を楽しませる取り組みには、新たな可能性を感じた。ホロライブはジャパニメーションの文脈との親和性も高く、アイドル要素が強い上に、ホロライブEnglishやホロライブインドネシアといった拠点において海外ファンも多い。チャンネル登録者数100万人を超える猛者も複数人所属しているため、今後も国内外への幅広いPRに一役買っていきそうだ。 一方、同じくチャンネル登録者数100万人超えのVTuber/ライバーが所属する「にじさんじ」は、Jリーグ2022シーズンのJ1全18クラブとコラボ、葛葉や月ノ美兎ら18人が動画配信やグッズなどの企画を展開している。例えば、鹿島アントラーズ担当になった葛葉は、5月14日に行われた北海道コンサドーレ札幌戦で、スタジアムの大型映像装置での応援メッセージを放映したほか、スタジアムBGMに葛葉の楽曲が使用された。「にじさんじ」は業界一の人数を誇るタレント集団。それだけにチーム数の多いJリーグでも、人気VTuberでカバーできるところも強い。また、普段から大規模なゲーム大会などを頻繁に行っている流れもあり、ライバー同士がライバル関係となってJリーグを盛り上げていく様子も見ていて面白い。推しライバーが応援するチームは自ずと推しチームとなっていく可能性が高く、今後Jリーグの入口となることに期待したい。 先述した大型プロジェクトだけでなく、コロナ禍の影響で売り上げが低迷した酒蔵を支援するオンラインストア「KURAND」が始めた、お酒好きVTuberとのコラボ企画「VTuber酒蔵応援プロジェクト」や、茨城県を魅力度ランキング最下位から救い、経済効果5億円をもたらしたというVTuber 茨ひよりなど、この2年間でダメージを受けた中小企業、地方自治体を救う希望にもなりうるVTuber。エンタメ、地方創生、経済といった分野の未来を担う存在として、今後もますます普及していくことが予想される。 ※1 https://www.userlocal.jp/press/20211019vs/
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