Yahoo!ニュース

IDでもっと便利に新規取得

ログイン

荒牧慶彦が己の正義に邁進するテロリスト役で魅せた圧巻の存在感。演劇配信プロジェクト「ひとりしばい」第1弾

配信

エムオンプレス

新型コロナウイルスの影響により、全国の劇場での興行が多々中止となっているなか、最大限「NO!!3密」を意識したうえで、「キャスト・スタッフらに活動の場を作りたい!」「舞台に立つキャストの姿をお客様に観てもらいたい!」という想いから実現した、講談社とOffice ENDLESSの共同プロジェクト「ひとりしばい」。 本シリーズは、タイトルのとおり“一人芝居”。ひとりの俳優が演出家とタッグを組み、完全オリジナルストーリーを、池袋に誕生したLIVEエンターテインメント複合施設ビル「Mixalive TOKYO」(ミクサライブ東京)の「Hall Mixa」からライブ配信にて届ける。 6月27日(土)は荒牧慶彦を迎え、作・演出は岡本貴也が担当。さらに6月28日(日)は小澤 廉が出演、作・演出は川本 成、最終日の7月4日(土)は北村 諒の出演、作・演出は西田大輔、と各日強力な布陣が揃った。 まずは、第1弾に配信された「ひとりしばい vol.1 荒牧慶彦」のレポートと終演後に行われたアフタートークの模様をレポートしよう。 【写真】「ひとりしばい vol.1 荒牧慶彦」の模様 取材・文 / 竹下力 ◆社会全体の不条理に対して抵抗する多くの若者の代表に見えた 配信での作品上演は“コロナ禍”においてすでに様々な場所で行われているものの、本物の劇場やセットを使い、12台ものカメラのスイッチングによる心理や風景の描写などの表現は、従来に配信された演劇ではなかなか観ることのできない試みである。それをワンテイクというライブ配信で、新しい“演劇”の形にしようとするポジティブな意欲に満ちた作品だった。 「vol.1」で主人公を演じる荒牧慶彦は、舞台『刀剣乱舞』(山姥切国広 役)をはじめ、『あんさんぶるスターズ!オン・ステージ』(朔間凛月 役)、MANKAI STAGE『A3!』(月岡 紬 役)など人気シリーズに数多く出演するほか、映画やドラマなどの映像作品への出演やゲームアプリ等で声優としても活躍している実力派俳優だ。 そして、そんな彼とタッグを組む作・演出の岡本貴也は、早稲田大学卒業後に劇団「タコあし電源」を旗揚げ。それ以降、執筆および演劇活動を開始し、朗読劇『私の頭の中の消しゴム』といった大ヒットシリーズには全作品に作・演出として携わるほか、テレビ『太陽の季節』、映画『想いのこし』で脚本を担当、映画『second』では監督も務め、数多くの作品を手がける一方、『彼女との上手な別れ方』や『世界が記憶であふれる前に』など著作も多数出版。こちらも凄腕の作・演出家である。 「断 -Dan-」と名付けられた今作における核は、現代の社会状況を取り入れた、作・演出の岡本貴也のハイセンスな現代批評にあるだろう。分断された“人と人”、“人とモノ”、“人と社会”。その中に生まれる“恐怖”や“暴力”、そして“悲しみ”や“怒り”……しかし、そこに差し込み続けるかすかな“希望”。1時間弱という短い上演時間だったが、極めて力強いメッセージに溢れた作品だった。 開演ブザーが鳴り、画面に現れたのは寝袋に包まっている男(荒牧慶彦)。 狭い部屋の中でひとり、マスメディアに向かい、爆破予告のメールを打っている。「ヤマダタロウ」と名乗る彼は、世界中に蔓延している新型ウイルスの感染症で隔離・監禁された人々を救済したいという想いから、政府を断罪するために立ち上がったのだと語る。 その後、テレビを点けて確認するも、どこのメディアも取り上げてくれない。それに苛立った彼は「父親にコンタクトを取らせてくれ」とあちこちに電話をかけまくる。しかし、父からの折り返しも、連絡の取れた兄からも無下に扱われてしまう。と、ここで彼の素性が判明する──現総理大臣を父に、父の秘書官である兄を持つ、「西堂昴(にしどうすばる)」であることが。 同時に彼は、手元にある拾い物の赤い財布の持ち主の女性にもコンタクトを取ろうとしていた。財布を落としてしまった彼女が困っているだろうと心配をし、何とかして届けたいと願う。一度は繋がらなかったものの、連絡が取れた彼女との対話に彼は安堵を取り戻したように見えたのだったが──。 隔絶された世界で顔も見えない相手との電話だけのコミュニケーション。そこに芽生えたのは、ほのかな“愛”なのか。彼が貫こうとした“正義”は是か非か。最後に彼が気づく“希望”とは何か……。 荒牧慶彦は、父親や兄弟に対する反発心や政治や社会に対する憤り、精神的に追い詰められ乱高下する感情を、身体全体で痛々しいほどに表現していた。 この男はヒーローを気取りたいわけではなく、鬱憤とした社会状況を打破したいと切に願う、どこにでもいるひとりのか弱い青年だ。それゆえ、彼の正義感に溢れる言葉は、社会全体の不条理に対して抵抗する多くの現代の若者が抱える主張と同じように耳に響いてきた。また、電話で会話するだけの女性に芽生えた“愛”は、人間同士に必要なものは“繋がり”だとも教えてくれた。 刻々と変わっていく状況に合わせ変貌していく“怒り”“喜び”“悲しみ”といった感情の振り幅の表情も卓抜でいて、画面には存在しない“相手”の造形やセリフを観る側に創造/想像させる余白作りもうまかった。さらに膨大なセリフ量を淀みなくこなすことで、“一人芝居”の醍醐味を感じさせてくれた荒牧には鳴り止まない拍手を贈りたい。 岡本貴也の演出は、12台ものカメラを素早くスイッチングさせることで、男の犯した罪や徐々に社会に追い詰められていく心の状況が切迫感を持って伝わってきた。ときにはクローズアップを使い、荒牧演じる男の苦悶や、優しさに満ちた表情をアップで捉えることで、人間の強さや弱さを饒舌に表現したと言える。 サスペンス要素の強い多くの伏線が、終盤に怒涛のように回収され、壮大なカタルシスが味わえる脚本も見事。それ以上に、“コロナ禍”における社会状況をフィクションの世界に落とし込みながら、現代日本の様相をわかりやすく示唆してくれたとも思う。半年前なら、SF的でフィクションでしか成立しなかったディストピアな世界が、現実にも起こり得る並行世界として表現されていたことに、急激な社会の変容と新しさをも感じさせてくれた素晴らしい舞台だった。 ◆もうエネルギーはありません(笑) 「ひとりしばいvol.1 荒牧慶彦」が配信されたのち、荒牧慶彦と岡本貴也が登壇したアフタートークが行われたので少しだけ触れておきたい。 まず開口一番、荒牧が「疲れたー! もうエネルギーはありません(笑)」と笑うと、岡本も笑いながら「ブレずに、しゃべりっぱなしだったからね」と演じ切った荒牧を称える。 “一人芝居”の難しさについて荒牧は「すべてひとりですから、電話をしているシーンも、本当に相手と会話しているようにセリフを言わなければいけないので大変でした」と話すと、岡本も「今作のセリフは1万2千文字もあって、それを50分で消化することはなかなかできないと思っていたので驚いています」と荒牧の“役者魂”に感嘆した様子を見せていた。 今回の企画は荒牧が「演者から演出家さんを逆指名させていただくことになっていて。岡本さんとは音楽朗読劇『ヘブンズ・レコード~青空篇~』(2019)でご一緒して、今作でもお芝居をつけてもらいたいと思いました」と語る形でタッグが実現したといい、それを受けた岡本が「コロナの影響でリモートや劇場から配信される舞台を観ると、“映画やテレビ”と“演劇”の境界線を考えてしまう。僕はその境界線を曖昧にしたかった。この企画をいただいて、今作はピッタリだと思いました」と明かした。 タイトルに「断 -Dan-」と名付けた経緯についても岡本から「今回の“コロナ禍”で僕たち演劇人がひとつになった部分と断絶されてしまったところがあるので、僕らの繋がりと分断をないまぜにしたストーリーを書きたいと思っていました。タイトルも“一人芝居”なので“一文字”がいいと思ったし、僕らが自粛していた2ヶ月のように、孤独を感じさせるものにもしたかった」と述べられた。 「素晴らしい脚本と演出で“一人芝居”ができました。本当に幸せです」と熱い言葉を発しながら、「この舞台を通して皆さんに何か伝わることがあったり、楽しんでいただけたら嬉しく思います」と荒牧が最後に締め括った。 本公演「ひとりしばい vol.1 荒牧慶彦」は、6月29日(月)~7月6日(月)までアーカイブ配信されるので、見逃してしまった場合にはぜひ観劇して欲しい。また、6月28日(日)には「ひとりしばい vol.2 小澤 廉」〈アーカイブ配信は6月29日(月)~7月6日(月)〉、7月4日(土)には「ひとりしばい vol.3 北村 諒」の上演も行われる。 (c)舞台「ひとりしばい」製作委員会 荒牧慶彦が己の正義に邁進するテロリスト役で魅せた圧巻の存在感。演劇配信プロジェクト「ひとりしばい」第1弾は、WHAT's IN? tokyoへ。

エムオン・エンタテインメント

【関連記事】