気候変動が天候に与える影響とは? BBCの気象予報士が解説
マット・テイラー、BBC天気 気候変動の影響により、世界中の人が劇的な熱波や致命的な洪水、森林火災などを経験している。 イギリスやヨーロッパの一部地域は7月、40度以上の高温を記録。公共交通機関に影響が出たほか、水不足にも見舞われた。 産業革命の開始以降、化石燃料を燃やすと排出される温室効果ガスが、大気中に熱を閉じ込めるようになった。この余計な熱は地球上に均一に広がるわけではなく、これが異常気象を引き起こす。 世界的に温室効果ガスの排出を減らさない限り、このサイクルは続く。 気候変動が天候に影響を与える仕組みを4つ紹介する。 ■1. より熱く、長期間の熱波 平均気温への小さな変化が与える影響を理解するためには、横軸に極寒と灼熱(しゃくねつ)を置いてベル型の曲線を描いたグラフを描くと分かりやすい。 曲線の中心を少しずらすだけで、曲線の大半が極端な気候に含まれてしまう。そのために熱波はより頻繁に、より強力になる。 イギリスでは7月19日、気温が観測史上初めて40度に達した。 英気象庁は、直近の熱波のような高い気温は、気候変動によって以前より10倍の頻度で起こりやすくなっていると推測している。しかも、事態はさらに悪化するかもしれない。 英インペリアル・コレッジ・ロンドンの気象学者、フリーデリケ・オットー教授は、「数十年のうちに、今年くらいの気温ならかなり涼しい夏だと言われるようになるかもしれない」と述べた。 加えて英気象庁によると、このところの熱波は気温が以前より高いだけでなく、その期間も前より長くなっている。高温が続く期間は、過去50年で2倍に伸びているという。 また、熱波は「ヒートドーム」と呼ばれる現象でも、期間が長くなり、激化する可能性がある。 「ヒートドーム」は、上空の高気圧が熱い空気を地表近くに押し下げ、固定させる現象のこと。時に、大陸全体の気温を上げることもあるという。 嵐が発生してジェット気流が乱されると、縄跳びの縄の片端を引っ張った時に縄が波打つような状態が作り出される。 この波が気象現象の変化を極端に遅くしてしまうため、ひとつの地域で同じ天気が何日も続いたりする。ちょうど、インドで今年初めに起きたような状態だ。 インドやパキスタンでは今年に入ってすでに、5回の熱波が立て続けに起きている。パキスタンのジャコバダードでは5月、49度を記録した。 南半球に目を向けると、アルゼンチンやウルグアイ、パラグアイ、ブラジルなどで1月の夏季に歴史的な熱波が発生。多くの地域で最高気温を更新した。 同月には豪・西オーストラリア州オンスロウで50.7度と、南半球の観測史上で最高気温となった。 昨年には、北米大陸が長期的な熱波に見舞われた。7月にはカナダのブリティッシュコロンビア州リットンで49.6度を記録し、山火事で町が焼失した。 各国の気候学者が連携する世界気象分析グループ(WWA)は、こうした熱波は気候変動の影響がなければ、あり得ないだろうと指摘している。 熱波が激化する背景には、北極の気温が上がったことでジェット気流の速度が遅くなり、ヒートドームの頻度が上がっているという説もある。 ■2. 長期的な干ばつ 熱波がより長く、より厳しくなることで、干ばつも悪化する可能性がある。 熱波の間に降る雨が少ないと、地面の水分量が減り、水源は早く乾いてしまう。そのため、地面は短時間で暖まり、暖まった地面は大気を暖め、さらに厳しい高温を引き起こす。 人間の活動や農業による水需要も重圧となり、水不足を加速させる。 ■3. 山火事がさらに活発に 森林火災は、人間が直接の原因となる場合もあるが、自然的要因が大きな位置を占めることもある。 気候変動によって厳しい高温状態が長く続くことで、地面や植物から水分が減っていく。 こうした発火しやすい状態が森林火災を加速させ、猛スピードで広がる要因となる。 北半球の一部地域では、降雨量の減少や季節外れの温かな気候で森林火災の季節が早まっている。今年7月には、こうした事態が悪化した。 最近では、フランスやスペイン、ポルトガル、ギリシャ、クロアチア、アルバニアといった国で深刻な山火事が発生。数千もの人が家を追われ、死者は数百人ともいわれている。 カナダでは昨年の夏、熱波が引き起こした山火事が急速かつ広範囲に広がった結果、「火災積乱雲」が発生。この巨大な積乱雲から雷が発生し、さらなる火災を招いた。 ここ数十年で、大規模な森林火災の頻度は劇的に高まっている。 科学者やジャーナリストによる独立団体「クライメイト・セントラル」によると、アメリカ西部で40平方キロメートル以上の森林火災が起きる頻度は、1970年代と比べて7倍に達している。 ■4. 豪雨も頻発 通常の気候サイクルでは、温かな気候が大気中の水分を増やし、それが雲となって雨を降らせる。 しかし、気温が上がるほど大気中の水分も多くなる。その結果として降雨も激しくなり、時には短時間で局地的な豪雨が降る場合もある。 今年もすでに、スペインやオーストラリア東部などがこうした豪雨に見舞われた。ブリスベンでは6日間で1年の雨量の80%が降り、シドニーでも年間の平均降雨量をわずか3カ月で記録した。 米国科学アカデミーの水の専門家、ピーター・グレイク氏は、降雨と気候変動の影響は他の場所でもつながっていると指摘する。 「シベリアやアメリカ西部などで干ばつの地域が拡大すると、別の狭い地域で雨が降り、洪水が悪化する」 地球上の天気は常に大きく変動しているが、気候変動によって、天気の変動がより極端になっている。 人間がこれ以上大気に与える影響を抑えるだけでなく、すでに直面している極端な現象に適応し、それに対処することが今の課題だ。 (英語記事 Four ways climate change is affecting weather)
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