御嶽海の初V理由は「稽古で弱いが本番で強い」“場所相撲“にありーー
角界入り後も大きな挫折はない。 今回の優勝は初土俵から21場所目で達成した。序ノ口デビューの「たたき上げ」を除く、幕下格付け出しデビューのエリート力士では歴代3位のスピード記録だ。 15年名古屋場所の新十両昇進も初土俵から所要2場所は最速タイ、長野出身力士では元幕内大鷲以来47年ぶりの関取になった。15年九州場所の新入幕も所要4場所という史上2位タイのスピード。その1年後の16年九州場所では新三役へ。昨年はただ1人、年6場所全部で勝ち越す安定感を見せつけた。 モンゴル人力士が圧倒的に幅をきかせる角界で、日本人力士がこれだけの実績を残せば、普通はもっと騒がれる。ところが、知名度や存在感がいまひとつだった。 なぜか? 昨年6場所全部で勝ち越したものの、2ケタ白星は新入幕から3場所目の16年春場所1度だけ。つまり8勝7敗、9勝6敗の連続で突き抜けた成績を残せなかった。 角界関係者の誰もが認める相撲センスを持ち、アマチュア時代に磨いた相撲勘もある。ところが、本来の突き押し相撲で一気に勝ちきるスタイルが徐々に薄れ、力感に欠け、うまさに頼る取り口が増えていったことが、ブレークを遅らせた要因の1つだ。 御嶽海の特徴を表す時、多くの関係者は同じ言葉を使う。今場所、優勝決定前日の13日目に対戦相手だった大関豪栄道はこう言った。 「典型的な“場所相撲”だからね」 稽古場ではそうでもないが、本場所の土俵になると強い。もっと言えば、稽古場では、弱い。 今場所前、出羽海部屋に栃ノ心ら春日野部屋の関取3人、境川部屋の豪栄道ら関取3人、田子ノ浦部屋の大関・高安が出稽古に訪れたことがあった。 御嶽海がその関取衆と相撲をとった内容は、2日間で9勝27敗。大関に負けるのは仕方がないにしても、栃煌山、碧山、妙義龍、佐田の海といった前頭の平幕力士相手にも分の悪さが目立った。 稽古の相撲は各力士が勝ち残った力士に対戦を求める形の「申し合い」という形式で行われたが、御嶽海はあまり積極的に名乗りを挙げず、親方衆から「おい、御嶽海、もっとやんなきゃダメだよ」と叱責する声が挙がる一幕もあったらしい。