小林聡美×松重豊、アン・ハサウェイ×ロバート・デ・ニーロらが贈る人間賛歌!『ツユクサ』など心温まる、大人の観るべき映画8選
『かもめ食堂』(05)、『めがね』(07)の小林聡美を主演に、『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』(19)の平山秀幸監督がつむぐ『ツユクサ』(4月29日公開)。海辺の町でささやかな幸せと共に暮らす女性に訪れた奇跡を描くヒューマンドラマだ。 【写真を見る】小林聡美×松重豊の出会いが、アン・ハサウェイ×ロバート・デ・ニーロ『マイ・インターン』コンビとの共通点は? 中山千夏による昭和歌謡「あなたの心に」がエンディングを彩る本作は、悩みを抱えながらも懸命に生きる人々にそっと寄り添う“人間賛歌”となっている。そこで今回は、『ツユクサ』の見どころに触れつつ、心にポッと灯りをともす作品を紹介したい。 ■ 勇気を与えてくれる“歳の差コンビ”の意外な共通点 『ヴィンセントが教えてくれたこと』 とある田舎町で一人暮らしをしている『ツユクサ』の主人公、五十嵐芙美(小林)は、ビル・マーレイが『ヴィンセントが教えてくれたこと』(14)で演じる破天荒なダメオヤジ、ヴィンセントと意外な共通点がある。ギャンブルやお酒漬けの毎日を送るヴィンセント(マーレイ)は、隣に引っ越してきたばかりのシングルマザーの12歳息子、オリヴァー(ジェイデン・リーバハー)のシッターを嫌々ながら請け負うことに。そして悪ガキたちにいじめられてばかりいるオリヴァーはヴィンセントから撃退法を教わり、ヴィンセントもまたオリヴァーの純粋さによって少しずつ変わっていく。 ヴィンセントとオリヴァーがお互いを影響し合うように、芙美にも、歳は離れているものの固い絆で結ばれた親友がいる。芙美の同僚の息子である航平(斎藤汰鷹)だ。 芙美が航平の散髪をしたり、隕石探しに出かけたりと、なにかにつけて2人は一緒の時間を過ごす。本作では芙美の日常のなかに息づく小さな幸せや転機が描かれるが、それと併行するように航平の成長の軌跡も映しだされる。淡い初恋からの失恋や、血のつながらない父親に素直になれない想い、そして突然訪れる大好きな人との別れ…。どれも甘酸っぱい少年時代のキラメキだ。芙美は航平の人生における重要ポイントに少なからず関わっていて、2人がお互いに大切な存在であることを実感させる“ハグ”のシーンには胸が熱くなる。 ■『シェフ』『永い言い訳』にも通じる、かけがえのない仲間たちと気づいた日常の幸せ 日々楽しく送る芙美には年の差の親友、航平の支えだけではなく、周りの個性的な大人たちも彼女に元気づけている。同じく仲間たちの存在に勇気づけられるのが、「アイアンマン」シリーズのジョン・ファヴローが製作、監督、主演、脚本を務めた『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』(14)。一流レストランで総料理長を務めたシェフが、ひょんなことからフードトラックで絶品キューバサンドイッチを移動販売することになるロードムービー。ケンカっ早いが魅力的なシェフの窮地を救おうと、元妻、元同僚、息子らが一致団結して協力する様子にほっこりさせられる。 また、本木雅弘が事故によって妻を亡くした男性に扮した『永い言い訳』(16)では、妻の死に対してなんの感情も沸いてこなかった人気作家である津村の心の旅を追う。彼は同じ事故で母親を失った妻の親友の子どもたちの面倒を見ることを申し出る。西川美和監督のメガホンによるこの作品では、同じ苦しみを抱える仲間と支え合う体験を通じて、誰かのために生きる喜びを知った男の変わっていく姿が感慨深い。 過去のある出来事によって、哀しみを抱えている芙美。そんな彼女の心の支えとなっているのが、同じ職場で働く仲間たちだ。航平の母である櫛本直子は、断酒を決意した芙美にそっと寄り添いつつ、その一方で、継父にあまり懐かない息子のことを心配してもいる。近年、話題作への出演が続く平岩紙の、さりげなくも滋味あふれる演技に癒される。さらに、夫を亡くすという辛い経験をしながらも、新しい恋に突き進む菊地妙子に扮したのは、江口のりこ。飄々とした演技で、作品にコミカルなテイストを与えた。それぞれに事情を抱えながらも、日常を丁寧に生きる仲間たちを体現した、実力派女優たちのアンサンブルは絶品! ■思いがけない出会いが背中を押す…『最高の人生の見つけ方』『マイ・インターン』のように踏み出す新たな一歩 常にそばにいてくれる心強い同僚もいれば、芙美の代わり映えない日々に新しい刺激を与えてくれる人物も登場する『ツユクサ』。そんな“一生モノの出会い”を描いた作品といえば、ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンというオスカー俳優2名の豪華共演で描かれる『最高の人生の見つけ方』(07) も忘れてはいけない。それぞれに余命宣告を受けている自動車整備士のカーター(フリーマン)と実業家のエドワード(ニコルソン)は、同じ病室になったことをきっかけに、悔いなき人生とするため“死ぬまでにやりたいことリスト”を実現する旅に出る。残り6か月という制限された時間のなか、人生を良いものにしようと旅立つ男2人のきらめきはまぶしい。 このほかにも“人生の師”との出会いが感動を呼ぶのはアン・ハサウェイ×ロバート・デ・ニーロ共演『マイ・インターン』(15)。ニューヨークのファッションサイトを運営する会社の社長であるジュールズ(ハサウェイ)は、仕事も家庭も順風満帆。そんな折、彼女の下に40歳も年上のシニア・インターンのベン(デ・ニーロ)がアシスタントとして配属される。試練にぶち当たったジュールズを優しく励まし、アドバイスを与えるベンの人間性が魅力たっぷりに描かれた。 なじみのバーでナポリタンを食べながらマスターと話している芙美は、ジョギング中に何回も見かけた草笛が上手な男性、篠田吾郎(松重豊)と偶然の再会を果たした。草笛の練習や、会話を重ねていくなかで、芙美と吾郎は理解し合っていく。寂しいながらも充実した日々を送る芙美には、恋の予感も訪れる。それぞれの過去を抱える2人は、新たな人間関係を築くことで一歩前に踏みだすきっかけをもらう。 ■ふとした瞬間に訪れる奇跡を大切に“いま”を精一杯生きる…『LIFE!/ライフ』『1秒先の彼女』 芙美の日記のように、彼女の日常生活を映しだす本作。“普通”な日々に訪れた奇蹟の輝きは海外のファンタジー作との共通性を感じさせる。ベン・スティラー監督&主演の『LIFE!/ライフ』(13)でも、人生に不器用な男性に訪れた奇跡が描かれる。フォトグラフ雑誌「LIFE」編集部で写真管理をするウォルター(スティラー)は、廃刊が決定した最終号の表紙に掲載する写真を手に入れるため、冒険家のショーン(ショーン・ペン)を探す旅に出る。空想ばかりで行動を起こさなかったウォルターが、外へと飛び出していき体験する壮大な景色がドラマティックに作品を彩った。 そして2人の間に起きるタイムラグが奇跡を呼ぶラブファンタジーが『1秒先の彼女』(20)。郵便局で働くシャオチー(リー・ペイユー)は、イケメンのダンス講師とバレンタインデートをすることに。しかし彼女が当日の朝目覚めると、なぜかすでにバレンタインデーの翌日になっていた!人よりワンテンポ早いシャオチーとワンテンポ遅いグアタイ(リウ・グァンティン)の人生が交差したことで起きる、予想だにしない奇跡にはきっと誰しも驚くことだろう。 芙美は帰宅途中に落ちてきた隕石にぶつかり、またある時は吾郎から教えてもらってツユクサの草笛が吹けるようになる。1億分の1の確率といわれる隕石の衝突、そして草笛の習得という些細な出来事、そのどちらも芙美の日常に起きた奇跡だ。芙美はこの奇跡を大切に、いまを精一杯生きることを決心する。 悩んだり喜んだりしながら日々を生きていく人間の在り方にフォーカスして共感と感動を誘うヒューマンドラマたち。観る者の心を温かくしてくれる人間賛歌を堪能しつつ、『ツユクサ』の公開を楽しみにしてほしい。 文/足立美由紀