イスラムのスカーフは服従のしるしじゃありません! 理想の男性に出会うための主体的選択なんです
イスラム教徒の女性が着用する目以外の顔を覆うスカーフ「ニカブ」。ニカブを身につけた女性のことはたびたび話題になるが、彼女たちの声が聞かれる機会はほとんどない。 フランスの社会学者のアニエス・デ・フェオは2009年から「ニカブ」を着用する100人近い女性たちに聞き取り調査をおこなってきた。 フランスでは2010年10月11日、公共の場において顔を隠すことを禁止する法律が成立したが、デ・フェオが調査を始めたのは、この法律に関する議論が世論を騒がせ始める数ヵ月前のことだ。 そのデ・フェオが、長年の調査結果をまとめた『ニカブの内側:顔を覆うスカーフを被り、その後やめた女性たち10年の記録』を発表した。顔を隠すことを選んだ女性たちに新たな光をあてる衝撃作として話題を読んでいる。
ニカブを被る女性たちはこの10年で大きく変わった
──あなたはニカブについて2008年という早い時期からフランスで調査されています。公共の場で顔を隠すことを禁じる法律に関する議論が起こる前から、このテーマに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか? 私は東南アジアで2002年から顔を覆うスカーフについての研究を始めました。2008年に博士課程に進んだとき、指導教授だった社会学者のミシェル・ウィエヴォルカがフランスでこのテーマに取り組むことをすすめてくれました。私はフランスを研究対象とすることにまったく興味がなかったので、最初はとても落胆しました。 その後、2010年10月の禁止法につながる2009年6月から始まった論争が好機となりました。私は女性たちの変化を追い、特に法に反してニカブを選択するという、新しい風潮を目(ま)の当たりにしました。 11年におよぶ調査の中で、ニカブを着用している約200人の女性たちと会い、そのうち約100人により詳しい調査をしました。彼女たちには、こちらから声をかけ、連絡をとるようになりました。 ──調査をしていた10年間に、ニカブを着用している女性たちのプロフィールに変化はありましたか? 2010年の公共の場において顔を隠すことを禁止する法律は、転換点でした。以前は、ニカブを着用している女性たちは再イスラム化の動きのなかで、完璧なイスラム教徒を体現しようとしていました。 サラフィー主義者(イスラム教原理主義)の男性たちがイスラムの預言者ムハンマドを模倣したがるのと同様に、彼女たちは伝統にならって顔をスカーフで覆った預言者の妻たちをモデルとしていたのです。彼女たちは結婚してサラフィー主義に加わり、最初はこの結婚生活のなかで大喜びでした。 2009年6月から、法の可決に先立ち、メディアが繰り返し取り上げたことで、「ニカブの女性」は社会と戦おうとする女性たちにとってのモデルとなりました。この「新しいニカブの女性たち」はインターネットでうわべだけの宗教心を学んだ独学のイスラム教徒たちでした。 彼女たちの宗教的な実践は往々にしてルーズで、ほとんどがアラビア語の学習には熱心でなく、なかには私に1日5回の祈りも定期的におこなっていなかったと打ち明けた人もいました。彼女たちはしばしば社会的に困難な状況にあり、孤独に苦しみ、家族からも孤立していました。 この法律は、メディアが生み出した厳格な宗教実践のイメージに合ったアイデンティティを作り出すことで、ほんとうは禁止したかったことを後押ししてしまいました。つまり、ニカブを着用する女性たちに、彼女たちの個人の行動が私たちの社会規範を不安定にできるのだと信じさせたのです。 見た目にあきらかな再イスラム化は、いまや問題を抱える女性たちにとっての規範となった、IS(いわゆる「イスラム国」)のメディアイメージとも結びつき、過激化を加速させました。 このようにして、私がインタビューしたうちの1人で、2020年1月にパリのオーステルリッツ駅でナイフとコーランの所持で逮捕されたナイマや、2013年にシリアに出発するまで調査に協力してくれていたエミリー・コニグのように、フランス人の「ニカブの女性」の何人かはジハード主義に傾倒していったのです。