『光る君へ』藤原道長が成し遂げた“一家立三后”の天下、有名な「望月の歌」は本当に傲慢さを表した歌だったのか?
■ 三条天皇の「困った申し出」に道長がとった作戦とは? 妍子だけではなく、今回の放送では、道長が子どもたちから手厳しい態度をとられる場面が多かった。 冒頭から父に歯向かったのは、長男の頼通である。発端は三条天皇が13歳の娘・禔子(やすこ)内親王を頼通と結婚させようとしたことにある。眼病がいよいよ悪化し、政務にも支障をきたすようになった三条天皇は、退位を迫ってくる道長をなんとか取り込もうとしたのだろう。 ドラマでは、木村達成演じる三条天皇が「我が皇女、禔子を左大臣の嫡男・頼通の妻とさせたい」と提案すると、頼通にはすでに妻がいたため、道長は困惑して「恐れ多いことにございますが、頼通は亡き具平(ともひら)親王様の姫を妻としております」と答えている。 だが、三条天皇は「構わぬ。我が姫が頼通の嫡妻となれば、まことに喜ばしい」と言って一歩も引く様子はない。頼通の愛妻家ぶりを知る道長は困り果てることになる。 たが、実際の道長は、もう少し前向きだったようだ。『小右記』によると、提案した三条天皇の方が「但し妻有るに如何(ただし、頼通には妻がいるからどうだろう)」と頼通の状況に配慮しているくらいで、それに対して道長は「仰せ事有るに至りては、左右を申すべからずてへり」、つまり、「そのように仰せいただいたのであれば、あれこれと申すわけにもいきません」と応じている。 ドラマでは道長が「帝のお望みとあらば、断れぬ」と渡邊圭祐演じる頼通を説得しようとするも、「嫌でございます。そのようなことを父上と母上が私にお命じになるなら、私は隆姫(たかひめ)を連れて、都を出ます」とまで言って反発。部屋から立ち去ってしまった。 道長はどうしたものかと長女の彰子に相談するが、「帝も父上も、女子を道具のようにやったり取ったりされるが……。おなごの心をお考えになったことはあるのか?」とまで言われてしまう。 頼通を説得するのは諦めながらも、むげには断れないため、息子には病に伏せてもらうことにして、どうにか乗り切っている。道長は五男の教通(のりみち)にこんな指示を出した。 「内裏中に噂を流せ。兄は命の瀬戸際の病であると。伊周(これちか)の怨霊によるものだ」 降嫁の話が持ち上がってから頼通が病に伏せて、命をも危ういとされたこと、また、それは伊周の霊によるものだと噂されたことも『御堂関白記』『小右記』に記載されている通りだ。 ドラマのように仮病だったかどうかは定かではないが、タイミング的には、天皇家からの縁談に起因した心労という可能性はありそうだ。結果的に破談になっているが、三条天皇もずいぶん次々と手を打ったものである。 ちなみに、このときに頼通との結婚話がなくなった禔子内親王は教通の継室、つまり2番目の妻となる。今後は頼通とともに、吉田隼演じる教通の動向にも注目したい。