封印されたサンリオのキャラ「キャシー」…「ミッフィー」著作権侵害への“弱腰対応”が招いた悲劇と“まさかの結末”
警告書にあっさりと白旗をあげたサンリオ
ところが、メルシスからの警告書を受け取ったサンリオは、なんと、「今後、オランダ及び全世界で、キャシーの商品供給は中止します」と、あっさりと白旗を挙げてしまった。人気のないキャラクターで、揉めるくらいなら中止でいいと思ったのかもしれないが、ちょっと腰抜け過ぎやしないかサンリオ! こうした姿勢は、交渉戦術、クレーム対応としては悪手である。相手に弱腰の態度を示し過ぎると、 やましい事情があったのではと勘繰られる可能性があるし、そうでなくとも付け込まれることがある。 実際、メルシスは単なる販売中止では矛を収めなかった。サンリオに対し、キャシーグッズのライセンシーや販売数、在庫数の開示、取引先に対する権利侵害事実の通知と在庫の回収などを求めて、アムステルダム地方裁判所に仮処分申請を行ったのである。
弱腰に付け込まれ、反抗を開始したが…
裁判所に引きずり出されてしまったサンリオは、ようやくここで遅まきながら反撃に転じ、権利侵害を積極的に否定する答弁を行った。中でも興味深かったのは、「ミッフィーの方こそ、キャシーをパクったのではないか?」とする反論だ。 実は、ミッフィーのデザインは時代とともに変遷しており、1970年代半ばより前のミッフィーの耳は、角ばっていた(下図)。当時の絵本は今も版を重ねているので、簡単に確認できる。その耳が、サンリオによるキャシーの発表以降、徐々にキャシーのように丸くなっているのである。サンリオはここを捉えて反撃したのだ。 だからといって「ミッフィーがキャシーをパクった」とはいい過ぎで、これもまた偶然の産物だろう。とはいえ、1976年生まれのキャシーがミッフィーの盗作であると主張するならば、その検証にあたっては 1976年以前のミッフィーの姿と比較する必要がある。その時代のミッフィーは耳の形状が異なるという事実を裁判官に気づかせるうえでは、インパクトのある皮肉だ。
有利に思われた裁判は“完敗”
客観的に見ればサンリオ有利と思われた裁判だったが、しかし結果としては、なんとサンリオが負けてしまった。著作権、商標権両方の侵害が認定されたのだ。 「ミッフィーの方がパクリ」というサンリオの主張については、「サンリオは具体的な証拠を示しておらず、妥当ではない」と、深く検討されないまま一蹴された。 疑問が残る粗雑な決定だが、 考えてみれば、ミッフィーはオランダが生んだ世界的スターである。海外企業との訴訟で、地元の裁判所がメルシスに肩入れすることはいかにもありそうな話だ。