なぜいま、投資家たちは米経済の景気後退を懸念するのか?
個人消費と自動車販売は好調 2月以降のデータに注目
一方、企業部門の苦境をよそに家計部門は健闘しています。個人消費(名目)は食料・エネルギーを除いたベースで前年比+4%超の伸びが確保されており、なかでも自動車販売台数は1,758万台(1月、季節調整済年換算)と景気拡大局面らしい水準にあります。とりわけSUVなど高級車が多く含まれるライトトラック(≒日本でいう大型車に近いイメージ)は1,015万台とガソリン安を追い風に好調な推移が続いています。 なお、筆者は自動車販売統計が、米GDPの7割を占める個人消費の基調を読むうえで、最も重視すべきデータと考えており、その好調持続は消費者が高額消費に前向きであることのあらわれだと判断しています。消費者は十分な所得と楽観的な将来見通しがなければ、自動車という高額耐久消費財の購入を決断できません。金融市場の混乱をよそに2月以降も好調な販売台数が維持されれば、景気後退懸念はある程度和らぐと期待されます。
労働市場は悪化は一時的? 3月頃までに見極め
とはいえ、こうも企業部門の不振が深刻になると、雇用に対する不安が生じてきます。そうしたなかで注目される新規失業保険申請件数(毎週木曜日発表され、速報性に優れているため注目度が高い)は減少基調が完全に一服しており、最近は増加基調にあります。直近値はおよそ28万件ですが、昨年後半は26万件でした。 現時点では、それが労働市場の悪化の始まりなのか、単に過去数カ月の反動増なのか判然としませんが、いずれにせよ昨年央と比較して労働市場の量的改善ペースが緩んでいることは事実です。 前年比でみた雇用者数の増加ペースと失業保険申請件数の減少ペースはともに勢いが鈍化しており、投資家の不安を増幅しています。ここから失業保険申請件数が30万件を突破するような事態となれば、景気後退懸念がさらに高まってしまいそうですが、反対に25万件に向けて減少基調を辿るなら悲観論が後退すると期待されます。 筆者は一時的要因により、失業保険申請件数が押し上げられていると判断していますが、そうした一時的要因が解消される3月頃までに失業保険申請件数が低下基調に回帰しない場合は、労働市場の回復に疑念を深めるべきと考えます。