なぜいま、投資家たちは米経済の景気後退を懸念するのか?
年初から中国経済不安や原油安で、マーケットは荒れ模様。さらにここのところ、投資家たちが米国経済の景気後退に不安を抱いているようで、その投資家心理悪化が株式市場にもあらわれています。その理由とはいったい何なのでしょう? 米国の主要なマクロ経済指標から見えてくる米国経済の見通しについて、第一生命経済研究所のエコノミスト・藤代宏一さんが解説します。
「景気減速」ではとどまらず、「景気後退」を懸念?
金融市場の混乱が終息せず、投資家の不安が自己実現してしまうリスクが高まっています。株価下落は、信用収縮・マインド悪化という複数の経路を通じて実体経済へ伝播してくるので、そのこと自体が景気減速要因になります。 ここへ来て世界の投資家を恐怖にさらしているのは中国不安、原油安もさることながら米経済に対する不安です。こうした局面は何度も経験してきましたが、今回は「景気減速」では収まらず「景気後退」まで心配されている状況なので根が深いです。 米経済に対する見方は、11-12月雇用統計(それぞれ12月、1月に発表)が異常なほど強かったため、数週間前まで、その不安は封じ込められていました。 しかしながら、予想どおりとはいえ、実質GDP(10-12月期、1月29日発表)がわずか前期比年率+0.7%に落ち込み、1月雇用統計(2月5日発表)が減速したことによって、強気派をサポートするデータがなくなり、不安が一気に表面化してしまった印象です。
製造業だけでなくサービス業も悪化基調
米指標に目を向けると、注目度の高いISM製造業指数(製造業企業に対する調査を指数化したもので50を超えていれば生産活動が拡大)が悪化基調にあるほか、設備投資の先行指標である耐久財受注が不振を極めるなど、製造業の苦境を示すデータが相次いでいます。実際、鉱工業生産の弱さは深刻で、3カ月前比でみた生産活動の勢いは金融危機後で最も弱い状況です。 また、これまでよく持ち堪えてきたサービスセクターもISM非製造業指数が3カ月連続で低下するなど冴えません。このよう企業部門は厳しい状況に置かれており、米企業の収益は前年比で2桁の下落が見込まれており、米国の代表的な株価指数であるS&P500に採用されている銘柄の2015年10-12月期決算は2四半期連続で前年比減益となっています(トムソン・ロイター社集計)。業種別に見てみると、これまでは弱さがエネルギーセクターに集中していましたが、最近は金融、公益(電力・ガスなど)、素材などに波及している点が気掛かりです。