イチローの日米通算記録を米国は認めているのか
ベイカー記者は、「レベルの問題の関して言えば、ローズの時代はどうだったのか」と疑問を投げ掛ける。 「あの当時、今ほど海外の選手がプレイしていたわけではない。ドミニカ共和国やベネズエラの選手らがリーグを席巻するようになるのは、もう少し後のことだ」 確かにローズがプレーした時代、例えば、ドミニカ共和国やベネズエラからの選手は限られていた。「baseball-fever.com」というサイトでは、1950年以降のマイノリティの比率を調べて掲載しているが、1980年、ローズが39歳の時のデータを辿ると、ヒスパニック系選手の比率は12%だった。イチローがデビューした2001年以降は26~29%程度で推移している。ヒスパニック系の選手らが大リーグのレベルを押し上げたことに疑いがなく、ローズからさらに遡って、白人だけでプレイしていたタイ・カッブの時代がどうだったのか、というところまで掘り下げると、レベルの問題は単純ではなくなる。 「ローズの時代と比べればチーム数が増えているので、その分、レベルが下がって、プラスマイナスゼロかもしれない」とベイカー記者は断ったが、考えさせられる視点だ。 日米通算に話を戻すが、公式記録とは認められない、という立場ながらも、「注目されるべき記録だ」と多くの記者が好意的に捉えている。 シアトル・ポストインテリジェンサーの元マリナーズ番記者で、現在はオークランド・トリビューン紙でアスレチックスをカバーしているジョン・ヒッキー記者は、「一つの金字塔だ」と肯定的。ケイプル記者は、そもそも日米通算にこだわりがない。「日米通算だろうと、ローズの記録を超える選手が現れるとは、誰も想像しなかった。参考記録かもしれないが、イチローという名前が歴史に刻まれる瞬間となる」。 ストリート記者は、「日米通算でもローズを抜けば、殿堂入りの投票のときに参考とする」と話した。「そう考える記者は多いと思う」。 「ローズを超える瞬間が、待ちきれない」と話すのは、YAHOO SPORTSのジェフ・パサン記者である。 「イチローが、ローズの記録を抜くとすると、それは技術だけではなく、どれだけ長く安定してプレイして来たかを証明する。むしろ、そちらの方が大切な要素ではないか。彼は本当の意味での鉄人と言えるし、日米通算といえど、長く野球を好きでいられたことの証明でもあるので、彼自身、誇るべき記録になると思う」 マッキャロン記者の言葉も印象的だった。 「もし、初めからメジャーでプレイしていたら、もうローズを抜いているのではないか。そう思わせる楽しさが、この記録には潜んでいる」 果たして、単に日米通算というだけでは、米記者や米野球ファンのかき立てることはない。しかし、合算であろうとここまで来ると、認めざるを得ない部分もある。 ヒッキー記者は、「全米でも大きく注目されるはず」と話し、「タイミングがいい」と続けた。 「おそらく、彼が達成するとしたら、来年の5~6月だろ? その時期、まだペナントレース争いには早いし、オールスターももう少し先だ。となると、大リーグには大きな話題がない。そういう時期も合わせ考えると、関心を集めやすい」 そうなれば、よりいっそう話題となり、議論がつくされる可能性はあるが、“参考記録”の域は出ないだろう。結局それが、現実的な落としどころか。 ただ、ローズに並び、さらに22本のヒットを重ねると事情は変わる。あと73本で過去29人しか達成していないメジャー通算3000本安打というマイルストーンを迎えるが、おそらくその時こそ、イチローの偉業を多くの新聞が大々的に伝えるはずである。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)