Yahoo!ニュース

IDでもっと便利に新規取得

ログイン

世紀のスーパースプレッダー「腸チフスのメアリー」が現代に残した教訓と課題

配信

The Guardian

【Rory Carroll】  メアリー・マローンは、今で言う「スーパースプレッダー」だった。当時、この言葉はまだなかったが、感染力が極めて強かったことから「腸チフスのメアリー」と呼ばれ、悪名をとどろかせた。  マローンは腸チフスの無症候性キャリア(健康保菌者)で、20世紀初頭の米ニューヨークで多数の人々の間に感染を広げた。裕福な家庭で住み込みの料理人として働いていたマローンの行く先々で腸チフスが発生し、勤め先の家族は次々と病気になった。1907年、感染源であることが特定され、ニューヨークのイーストリバーに浮かぶノース・ブラザー島の病院に強制隔離され、生涯を終えた。  1938年に69歳で死去したマローンは、世間で「米国で最も危険な女性」、死ぬまで隔離を必要とされた発端患者(集団内で最初の患者となった人物)、事実上の囚人として語り継がれ、非難、中傷された。  100年後の今、新型コロナウイルスを抑制する闘いで、クルーズ船の乗客、飛行機の乗客、そしてイタリア、中国、その他の国々で大勢の人々が一時的に隔離されている。各国の対策は、ソーシャルディスタンシング(他者との接触機会を減らす公衆衛生上の対策)の確保や自主隔離の要請から、移動規制、集会の禁止、サーベイランス(感染症などの発生状況や変化を継続的に監視すること)の強化などさまざまだ。韓国では、感染拡大の中心となった新興宗教団体による集会が殺人行為として非難されている。中国の一部では、具合が悪い地元住民を当局に通報すると奨励金が支払われるところもある。  歴史学者のジュディス・リービット氏は自著「Typhoid Mary: Captive to the Public’s Health(「腸チフスのメアリー:公衆衛生のために捕われた女性」の意。未邦訳)」の中で、「地域社会の人々の健康を守るために自由が脅かされ得るという状況は、ほとんどの健康な米国人にとっては想像し難い」と指摘している。  マローンは1869年、アイルランドのティローン州クックスタウンで生まれた。10代で米国に渡り、1900年にニューヨークの裕福な家庭で料理人として働き始めた。  マローンが働き始めると、いつも同じパターンをたどった。住み込み先の主人や、他の使用人たちが発熱や吐き気といった症状を示し始め、腸チフスにかかる。命を落とした人もいた。一方でマローンは、厨房(ちゅうぼう)で忙しく立ち働き、元気なままだった。そして自分が感染していることを自覚しないまま、次の家庭へと移っていく。  1906年、銀行家チャールズ・ヘンリー・ウォーレンに雇われていたマローンが、ロングアイランドのオイスターベイに一家が借りていた家で料理人として働いていると、その間に家族11人のうち6人が体調を崩した。不審に思った家の主人は衛生士のジョージ・ソーパーに調査を依頼した。

【関連記事】