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ピース又吉原作映画「劇場」行定監督がほれ込んだ意欲作「自分がやりたかったことが全部ある」

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スポーツ報知

 行定勲監督(51)がメガホンを執った映画「劇場」が17日に公開される。主人公の永田役に山崎賢人(25)、ヒロインの沙希役に松岡茉優(25)を起用して、芥川賞作家のお笑い芸人・又吉直樹(40)による同名小説を映画化。行定監督は不器用に生きる演劇青年の永田を「自分のことに思えた」というほど共感し、ほれ込んだ意欲作だ。公開同日にAmazonプライム・ビデオで配信開始する邦画史上初の試みも注目されている。(有野 博幸)  原作を読んで、強い衝撃を受けた。行定監督自身も演劇や映画を志して上京した経験があり「自分がやりたかったことが、この小説の中に全部ある。これが映画にできたら本望だ」と映画化を熱望した。作品には自らの経験や思い入れを存分に盛り込んだ。  不器用に生きる主人公・永田のことが他人とは思えなかった。「自分の身に覚えがあることばかり。彼の持つ自意識、自我というものを確立できないところ。それを一番、理解して支えてくれる最愛の人間を無意識に傷つけていく。人間の狭さ、小ささ、それが人間の普遍的な部分じゃないのかな」。映画化にあたり「映画だったら、もっと夢を見させてくれよ」という意見が出ることも想定しつつ、「こういう愛の形の方が記憶に残るはず」と意志を貫いた。  山崎には斉藤和義、宮本浩次(エレファントカシマシ)を思わせる無造作な長髪と無精ヒゲを提案した。「風貌も含めて、これまでに演じたことのない役柄だったと思う」。撮影に入ると「彼だからこその偏屈さがうまく出ていた。イケメンがこじれているのが一番、残念ですよね。人間らしさ、愚かさ、伏し目がちな姿勢で、ささくれた感情がハマればいいな」という期待をはるかに超える手応えを感じることができた。  以前から興味があったという松岡の芝居には戸惑うことばかりだった。「子役からやっているから、計算された芝居を持ち合わせているし、それを自由に披露できるスキルもある」。沙希が前髪を触る癖も松岡が自らのアイデアで持ち込んだものだ。「意識的にやっているのか、彼女自身の癖なのかも分からない。こちらの想像を凌駕(りょうが)するものを見せられて、編集しながら何度も感嘆した」と表現力に脱帽した。  物語の舞台となった下北沢は「夢を持ち合わせて、傷つけ合いながら、痛みを共有する街。僕らの時代はそういう人たちが集まっていた」と実体験で認識している。「映画の力は大それたことはないけど、何か落ち着いたり、もう一度、自分を省みるきっかけになるもの。それがこの映画にはあるんじゃないかな」。巧みな比喩を交えて心の奥底にある感情を表現する又吉らしい、ずっしりと響くフレーズも随所にちりばめられている。  ラストでは原作とは違う表現で「演劇的な効果で映画的に見せられる手法はないかな」とアイデアを振り絞り、映画独自のシーンに仕上げた。「映画館の客席から見たスクリーンに地続きで描かれているラストシーン。『劇場』というタイトルだからこそ、映画館と劇場が一体化するようにしたかった」。そのシーンには「憎いという感情も美しく、自分の記憶として残る」という思いを込めた。  公開日の同時配信という異例の試みでも注目される。当初は4月11日に全国280館ほどの大規模公開を予定していたが、新型コロナウイルスが直撃。公開延期となり、大規模な展開を再構築することが難しくなった。「劇場公開を諦めなくてはいけないのかと真剣に考えました。配信でも観客にちゃんと届けば感動を共有できるはず。映画館で見たいという人の期待にも応えられるのなら、同時配信もありかなと決断した」。大幅な縮小になったが、東京・渋谷のユーロスペースなど20か所のミニシアターでの公開が決まっている。  映画館で観客に見てもらうことを念頭に作り上げた。それがコロナによって「劇場で映画を見ることは、特別な体験で、とてもぜいたくなことなんだ」と気づかされた。日本映画界の規定では同時配信するものは「映画」とは異なる「オリジナルビデオ作品」とされるが、「僕は映画だと思っています。見た人がどう感じるのか、それを信じたい」。数年後、同時配信が一般的になり、今回の決断が時代の分岐点になるかもしれない。  ◆行定 勲(ゆきさだ・いさお)1968年8月3日、熊本県生まれ。51歳。テレビドラマや岩井俊二監督作品の助監督を経て、監督作「GO」(01年)で報知映画賞など映画賞を総なめに。代表作は「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)、「北の零年」(05年)、「パレード」(10年)、「ナラタージュ」(17年)、「リバーズ・エッジ」(18年)など。「窮鼠はチーズの夢を見る」が9月11日公開。くまもと復興映画祭のディレクターを務め、舞台演出も多数手掛けている。  ◆「劇場」 「火花」で芥川賞に輝いたピース・又吉直樹の同名小説が原作。下北沢や渋谷を舞台に演劇での生活を夢見る永田(山崎)と、女優を目指して上京し、服飾の学校に通う沙希(松岡)の恋愛を描いた青春物語。永田は沙希の明るい性格に勇気づけられ、演劇に没頭するが、理想と現実の間で不安や葛藤を募らせる。寛一郎、伊藤沙莉、King Gnuの井口理らも出演している。

報知新聞社

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