歯周病が全身疾患の原因に…歯磨きや食事は?口腔ケア三つのポイント
虫歯と歯周病が全身の疾患に影響
日本では成人の9割以上が虫歯になった経験があり、2人に1人が歯周病にかかっていると言われています。口の中のトラブルを「大した病気ではない」とみる向きもありますが、近年、歯周病などを引き起こす口内の細菌が全身の病気に大きく関係していることが明らかになりました。口内の細菌と全身の健康との関係や、正しい口腔ケアについて、東京科学大学大学院講師で歯科衛生士の安達奈穂子さんに聞きました。 安達さんによると、虫歯の原因となる「虫歯菌(ミュータンス菌)」と、歯周病の原因となる「歯周病菌」は、どちらも口の中にたまった汚れ(歯垢や歯石)に潜んでおり、健康な人の口の中にも常に存在しています。 正常な口内では、虫歯菌や歯周病菌などの「悪玉菌」と、乳酸菌などの「善玉菌」とのバランスが保たれています。 ところが、口内の汚れに加えて、女性ホルモンの変化、喫煙、ストレス、歯ぎしり、それに遺伝的な要素といった原因が重なることで、口内の菌のバランスが崩れて悪玉菌が増加し、虫歯や歯周病が引き起こされてしまうといいます。 「虫歯や歯周病が進行すると歯を失うこともあります。歯がなくなってしまったら、食事がおいしくなくなり、自信をもって笑顔を作ることも難しくなります。さらに、細菌は口内だけでなく、全身の健康にも悪影響を及ぼします」と安達さんは強調します。 心臓の病気である「感染性心内膜炎」の患者から検出された原因細菌を調べたところ、約3割が歯周病菌だったという報告も。歯周病菌が歯肉から血管を通って全身に回ったものとみられています。 そのほかにも、糖尿病や誤嚥性肺炎、早産・低体重児出産など、数多くの疾患と歯周病菌が関係していることが、様々な研究から明らかになっているといいます。
セルフケアとプロのケアを
虫歯や歯周病を防いで、健康な体を維持するために、口内を常に清潔にしておくことが大切です。そのために必要な三つのポイントを安達さんに教えてもらいました。 〈1〉歯磨きだけでなく、歯間ブラシとマウスウォッシュを併用する 汚れや細菌を取る方法には、歯磨きや歯間ブラシなどを使って歯の表面の細菌を取る「物理的除去」、マウスウォッシュなどで口の中を浮遊する細菌を取り去る「化学的除去」の2種類があるといいます。 物理的除去の鍵になる歯ブラシは、「軟らかめや普通の硬さのブラシをおすすめすることが多い」と安達さん。「個人差もありますが、毛が硬い歯ブラシを使用すると、歯茎を傷つけてしまうことがあります」と注意を促します。また、歯の隙間に歯間ブラシが入る場合、フロスと歯間ブラシなら歯間ブラシのほうが除去率が高く「より効果的」だそう。 化学的除去を意識する人も増え、マウスウォッシュの市場規模は年々拡大しています。「リステリン」(Kenvue)、「ガム」(サンスター)、「モンダミン」(アース製薬)などさまざまな商品がありますが、「マウスウォッシュは商品によって配合成分が違うので、虫歯予防を重視するならフッ化物が配合された商品にするなど、目的に合わせて選ぶのがいいでしょう」。着色やアレルギー反応などの副作用もあるため、「場合によっては歯科医師に相談するのがベスト」とアドバイスします。 ただ、歯磨きやマウスウォッシュなどは、「毎食後に行う必要はない」とのこと。「歯磨き剤をゆすぐために何度もうがいをするのは、虫歯の発生や進行を防ぐ働きのあるフッ化物が口内から流れ落ちてしまうので、良くありません」とした上で、安達さんが教えてくれたのは、歯科予防の先進国とされるスウェーデンで推奨されている歯磨き法です。 「1日2回は歯磨きをする、フッ化物入りの歯磨き剤<フッ素濃度1450ppm>を2センチ使う、歯磨きは2分以上、歯磨きの後2時間は飲食しない――というもので、『2+2+2+2』と呼ばれています」 〈2〉何度も間食をせず、時間を決めて飲食する 「虫歯になるから」と、子どもにチョコレートなどの甘い物を食べさせないように気をつけている家庭は多いでしょう。しかし、安達さんは「『何を食べるか』より『食べる頻度』の方が重要です」と強調。これは、大人も同じです。「職場のデスクに砂糖やミルクが入ったカフェオレなどを置いて、ちょこちょこ飲んだり、1日に何回も間食をしたりすると、虫歯菌によって産出された酸によって虫歯が進行しやすくなるので、時間を決めて飲食すること。甘い物はデザートとして食後、すぐに食べるといった改善が必要です」 〈3〉定期的にプロのケアを受ける 安達さんによると、「5人に4人は歯周病に罹患していても気付かない」といいます。「歯磨きや歯間ブラシで磨いている時に血が出たり、歯茎が赤く腫れたりといったサインはありますが、初期の症状はマイルドで、歯茎の調子がいい時と悪い時の波もあるので、見過ごしてしまうことも多いのです」と説明します。 そのため、病気の症状に早く気付くためには、定期的に歯科医院へ行くことが基本。「歯科医院ではまず、虫歯や歯周病の状態を検査して、その結果に基づいてセルフケアの指導をします。その後に、専用の器具を使って歯石の除去を行い、虫歯のリスクが高い人には、高い濃度のフッ化物を塗るなど、セルフケアではできない処置を行います」 歯科医院には、歯が痛い時にだけ行くという人がほとんどでしょう。でも、痛みがなくとも歯科医院を訪れてケアを受け、同時に自分の口に合ったセルフケアを実践していくことが、体の健康を保つためにも大切なようです。 (読売新聞メディア局 長縄由実)