「骨の強さは骨密度で決まるからカルシウムが大事」は今の医学ではもはや時代遅れの理由
骨も同様で、カルシウムなどのミネラル成分とコラーゲンの分子が粘り強くつながり合うことで、骨の強度を保っています。 骨に存在する無数のコラーゲン分子は、棒状のタンパク質です。建物でいうところの鉄筋1本がコラーゲン分子1本で、「架橋」(かきょう)と呼ばれるものが「梁」(はり)の役割を果たして、隣り合う鉄筋同士(コラーゲン同士)をつなぎとめています。 この無数のコラーゲンが骨に粘り強さ、「しなり」を与えます。コンクリート(=カルシウム)だけの建物は瀬戸物のように粘り強さがなくパリンと割れてしまいますが、鉄筋(=コラーゲン)が足りない骨も、まさにこれと同じです。強度が足りず、弱く劣化しやすいというわけです。
コンクリート=カルシウムなど=骨密度(骨量) 鉄筋=コラーゲン=骨質 という関係性です。骨の強さは、カルシウムだけでなく、コラーゲンが影響しているのです。 人の骨密度は、生まれてから20歳くらいにかけて一気に上がり、40~50歳くらいから低下します。結果として、10代の子どもの骨密度と80代の高齢者の骨密度は同じ程度です。ですが、骨折するときの「折れ方」はまったく違ったものになります。 子ども特有の骨折に「若木骨折」というものがあります。その名の通り、骨が若木のようにしなりながら曲がってしまいます。ポキッとはいかない折れ方です。
■かつてのガイドラインとは隔世の感 子どもの腕や足などの細く長い骨(特に腕の骨)に生じやすく、強く手をついて転倒するなど、細く長い骨の縦方向に力が加わることによって起こります。若木骨折は、基本的に大人がなることはありません。 同じ骨密度であっても、高齢の方の場合、ポキッと硬くてもろい骨折になるのは、コラーゲンが劣化し、骨質が低下していると、強度は保てないということの証と言えるでしょう。 「骨を強くするにはカルシウムで骨量を増やすだけでなくコラーゲンの質を高めて骨質を高めることが必要だ」ということを発見したのは私たち慈恵医大のチームです。
1993年にWHOが示した骨粗しょう症の定義には、「骨の強さは骨密度で決まる、だからカルシウムが大事」とあり、当然ながら骨質のこともコラーゲンのことも書かれていません。 コラーゲンの重要性など、「骨質」が骨の強さにかかわるメカニズムが解明されたことで、世界の骨の常識はがらりと変わり、骨粗しょう症のガイドラインも改訂され、治療も大きく前進することになりました。 かつてのガイドラインと現在とでは、まさに隔世の感がありますが、私たちはその後も、骨の常識を塗り替える発見や発明を積み重ねています。
斎藤 充 :東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授