無観客で開幕した韓国Kリーグから何を学べるか?
Jリーグが公式戦中断を決めたのが2月25日。その後に3度設定された再開目標はすべて流れ、いま現在は白紙に戻されている。ほぼ同時期に延期へと踏み切り、開幕までこぎ着けたKリーグから、新型コロナウイルス禍を乗り越えるためのヒントを得ることはできるのだろうか。 韓国プロサッカー連盟はリーグ戦開幕へ向けて、新型コロナウイルス禍に対応するためのさまざまなマニュアルを定めている。メインとなるものをあげると下記のようになる。 【A】選手やコーチングスタッフはキックオフ前に試合前日、当日の午前10時、スタジアム到着時と3度にわたって発熱の有無を調べる検査を受ける。 【B】試合中はベンチの監督やコーチ、スタッフ、リザーブの選手たち、第4審判員は全員がマスクを着用する。ただ、選手たちがウォーミングアップをしている間は例外とする。 【C】ピッチ上における味方同士の握手や派手なゴールセレブレーション、至近距離での会話や相手選手との罵り合いだけでなく、ペットボトルやタオルを共同で使用することもすべて禁止とする。 8日の一戦はともに無得点で迎えた後半38分に、Kリーグ歴代最多得点記録をもつ全北現代のレジェンド、41歳のFWイ・ドングクが決勝点を決めた。元アビスパ福岡のFW邦本宜裕を含めた選手たちは抱き合う代わりに、最前線で戦う医療従事者へ敬意を示すポーズで千金の一発を喜び合った。試合の前後も含めて、ハイタッチや握手は拳やひじでのタッチへと変えられていた。 必要以上につばを吐く行為や鼻をかむ行為の禁止などを含めて、韓国で徹底されたマニュアルはJリーグの実行委員会や、日本野球機構(NPB)と共同で設立された新型コロナウイルス対策連絡会議でも議題に上がっている。実際にKリーグで実践されたことで、再開へ向けて大きな参考となる。
しかし、Jリーグが実践するには現状で極めて高いと言わざるを得ないハードルを、Kリーグは完璧にクリアしている。韓国プロサッカー連盟は先月27日から29日にかけて、Kリーグ2部を含めた全22クラブの所属選手、コーチングスタッフ、クラブスタッフ、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)オペレーターを含めた審判員に対してPCR検査を実施している。 サッカーはピッチ上での接触が不可避な競技特性をもつ。ゆえに国際サッカー連盟(FIFA)の医事委員会でトップを務めるベルギー人の医師、ミシェル・ドーゲ氏が「人と人との接触が可能になった段階で、初めて再開することが可能になると考えている」と早期再開へ警鐘を鳴らしていた。 韓国プロサッカー連盟が指示し、費用を全額負担したPCR検査の対象は約1100人にのぼった。全員の陰性が確認されたことを受けて、1日には「世界で最も安全なリーグであることが証明された」とする声明を介して、FIFAが示した懸念をもクリア。韓国プロ野球に続く開幕への準備を整えている。 ドイツのブンデスリーガも今月16日に決まった再開へ向けて、1部と2部の全36クラブに所属する選手やスタッフにPCR検査を実施。6月中旬の再開を目指すスペインのラ・リーガもPCR検査を順次実施していて、マジョルカに所属する日本代表MF久保建英もすでに受けている。 PCR検査を介して関わる全員の陰性を証明する作業は、公式戦再開へ向けて欠かせないプロトコルになっていると言っていい。ならば、日本はどうか。緊急事態宣言が発令される前の3月下旬の段階で、再開へ向けた観戦環境対策プロジェクトのリーダーを務めるJリーグの藤村昇司特命担当部長は「PCR検査を受けたい方に対して、社会全体の検査能力が不足していると思う」とこう受け止めていた。 「全員がPCR検査を受けられて陰性が確認されれば一番安心ですけど、いまのところはそういった働きかけを具体的に計画していることはありません」