MotoGP日本人ライダーの戦い【第16戦日本GP】もてぎを沸かせた小椋藍、2位表彰台獲得に相反する胸中
複雑な天候の、2024年日本GPだった。 週末を通じて空を曇天が覆い、時折雨がばらばらと落ちてくる。それはしっかりした雨粒だったり、小雨だったりする。といっても、路面が完全に濡れるほどでもない。 【画像】MotoGP第16戦日本GPをギャラリーで見る(9枚) そんな天気の影響を最も受けたのが、Moto2クラスの決勝レースだ。けれど小椋藍(MTヘルメット – MSI)は、その複雑なコンディションを味方につけたライダーの一人だった。 文/Webikeプラス 伊藤英里_Eri Ito
「スリックだろ」。クルーチーフの言葉を信じた小椋藍
Moto2クラスの決勝レースは、振り出した雨により1周目で赤旗中断となった。全ライダーがスリックタイヤを履いてスタートしていたからだ。約10分の中断を経てレースは再スタートとなったが、タイヤ選択がライダーを悩ませた。 8名のライダーがスリックタイヤで、フロント、リヤともにソフトタイヤを選択。つまりドライコンディション用の溝のないタイヤを選んで2回目のグリッドについた。そのうちの一人が、小椋藍(MTヘルメット – MSI)だった。その他多くのライダーは、レインタイヤを装着している。 日本GPを迎えたとき、小椋はチャンピオンシップのランキングトップにつけており、ランキング2番手のチームメイト、セルジオ・ガルシア(MTヘルメット – MSI)との差は42ポイントとしていた。そのガルシアは、レインタイヤを選んだ一人だった。 結局のところ、タイヤ選択はスリックが正解だった。再スタート後、1周目を慎重に走った小椋は、2周目以降、あっという間にレインタイヤ勢を抜きさっていった。14番手に後退したところから3周目でトップに立ち、さらに4周目にはレインタイヤを履いた2番手のジェイク・ディクソン(CFMOTO Inde・アスパー・チーム)に対し、4秒以上のギャップを築いているところからも、スリックタイヤ勢とレインタイヤ勢のペース差がいかに大きかったのかを物語っている。 小椋としては、「雨が降ったらスリック勢は終わりだ。レインタイヤ勢に対してできるだけリードを広げておかないと」という考えもあった。 そんな小椋に、マヌエル・ゴンザレス(QJMOTORグレシーニMoto2)が迫る。小椋はゴンザレスが迫っているとわかったとき、「2位も受け入れるしかないかな」と思い始めたという。「2位でいい」と思ったわけではない。ただ、小椋が戦っていたのは日本GPの決勝レースであり、同時にチャンピオンシップでもあった。 2位でゴールした小椋は、クールダウンラップで、観客席のファンに向かって何度も両手を合わせた。その行動の意味は、レース後に語っていた「優勝しなくちゃいけないレースだったと思いますよ」という言葉に集約されているだろう。 とはいえ、複雑なコンディションでの重要な2位だったことには間違いない。小椋は2位獲得の要因となったスリックタイヤを選んだ理由について、クルーチーフであるノーマン・ランクの選択があったと語っている。 「僕はどちらのタイヤがいいのか、全くわからなかったんです。だから、チームの中でいちばん自信を持っている人を信じました。ノーマンが『スリックだろ』って。僕は反対できるほど、(自分の決断に)自信がなかったから」 小椋の取材を終えたあと、「スリックで行く」と断言したというランクに、なぜ小椋にスリックを勧めたのか、と尋ねた。ランクはそのときのコンディションを見て「もっと路面が濡れなければレインタイヤでは戦えない」と考えたのだと説明している。 チームの判断、チームを信じた小椋、そしてその判断を結果につなげた小椋のパフォーマンスが、見事に融合した2位表彰台だった。 「チャンピオンシップとしてはハッピーですが、レースとしてはあまりうれしくはないですね」 これが、今回のレースに対する小椋の本音だ。けれど、小椋はこのレースによって、チャンピオンシップで大きなアドバンテージを築いた。ガルシアはやはりクルーチーフとともに選んだタイヤ──ただしそれはレインタイヤだった──で苦しいレースを強いられて14位に終わり、この結果、小椋はガルシアとの差を60ポイントとした。 次戦オーストラリアGPでランキング2番手以下に75ポイント以上の差をつけることができれば、小椋藍の2024年Moto2チャンピオン獲得が決定する。
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