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ミスター・マイナンバーが語る、銀行口座との紐づけ案 「10万円給付でようやく皆の『自分ごと』に」

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税理士ドットコム

政府・与党が、全国民に付番されているマイナンバーと預貯金口座の紐づけを義務化する検討を進めようとしている。災害時の迅速な給付などにつなげる目的だが、インターネット上では「監視社会になる」「国に資産を把握されたくない」と反対の声が上がっている。このような意見に対し、国はどのように理解を求めるのか。マイナンバーの制度設計に携わり「ミスター・マイナンバー」と呼ばれる、内閣官房番号制度推進室の浅岡孝充企画官に聞いた。(ライター・国分瑠衣子) ●高市総務相が発言した「紐づけ義務化」の意味 「誤解されていると感じる場面も多いので、制度を整理して説明したい。預貯金口座とマイナンバーの紐づけは今、2つの動きがある」。浅岡企画官はこう切り出した。 マイナンバーと預貯金口座の紐づけは、2015年に成立し、2018年に施行された改正マイナンバー法に盛り込まれた。社会保障制度における資力調査や税務調査、破綻した金融機関に代わって預金保険機構がペイオフ(預金の払い戻し)するための預貯金を合算する時にマイナンバーを使う目的がある。 新規口座の開設や、住所変更などの時に金融機関の窓口でマイナンバーの提供が求められるが、紐づけは任意だ。これまで預金者側には「資産を把握される」という抵抗感が強く、金融機関側も積極的に顧客に提供を依頼する動きは鈍かった。野村総合研究所が2019年に公表した調査結果によると、口座開設や住所の変更手続きで銀行からマイナンバーの提供を依頼された人は3割を下回る。 このため高市早苗総務相は今年1月、預貯金口座とマイナンバーの紐づけ義務化も含めて、財務省と金融庁に検討を要請した。当初は全口座の義務化を目指していたが、1人1口座の紐づけ義務化に方針転換した。来年の通常国会でマイナンバー法改正案の提出を目指している。 ●議員立法で提出された「もう1つの紐づけ案」 浅岡企画官が説明するもう1つの動きとは、自民、公明両党、日本維新の会が6月、マイナンバーの個人向けサイト「マイナポータル」に、希望者が給付用の口座を登録できるようにする議員立法を国会に提出したことだ。国が名前や生年月日、電話番号やメールアドレスなど「口座名簿」を作成して管理し、給付事務が発生した時に名簿に登録された口座に給付金を振り込む。 新型コロナウイルス対策の10万円給付では、オンライン申請する人は振込先を入力しなければならず、金融機関名や支店名を誤り、確認に時間がかかったケースが目立った。申請者にも自治体職員にも負担がかかったため、事前の口座登録で迅速な給付につなげようという狙いだ。 議員立法では口座の登録は任意とされたが、高市総務相は「行政からのさまざまな給付を受けるために利用する一生ものの口座情報ができれば、プッシュ型の迅速な給付や行政コストの削減に資する。できれば義務化したい」と、政府提出法案として準備を進める考えを示している。 ●開始5年「マイナンバー由来のプライバシーや財産被害は起こっていない」 預貯金口座とマイナンバーの紐づけについて、日本弁護士連合会(日弁連)は、2015年に反対の声明を発表している。声明では「預貯金口座における預貯金者の生活と密接な関連を有する預貯金情報(日付・金額・支払い先などは重要な個人情報である)全体も含めて、マイナンバーによる検索が可能となり、情報漏洩等が発生した場合のプライバシー侵害のおそれは極めて重大である」と、情報漏洩の可能性を指摘している。 しかし浅岡企画官は「マイナンバー制度が始まって5年だが、マイナンバー由来のプライバシーや財産の被害は起こっていない。また、金融機関とマイナンバーの情報が紐づいたとしても、それで国に情報がもたらされることはない」と理解を求める。 マイナンバーと口座情報の紐づけは、金融機関の協力が欠かせない。浅岡企画官は「金融機関の中でも紐づけを利用したいというところと、余計な事務負担が増えるので放っておいてほしいというところの両方の意見があると理解している」と説明する。「金融界は口をつぐむが、合併を繰り返してきたところほど『名寄せ』がきちんとできていない印象だ。マイナンバーと口座を紐づけ、番号で名寄せができると金融機関にとってもメリットが大きい」と強調する。 ●9月から5000円分のポイント還元、来年3月からは保険証代わりに 2018年10月に内閣府が行った世論調査では、「マイナンバーカードを取得していないし、今後も取得するつもりはない」と回答した人が53.0%と過半数だった。取得しない理由は「必要性が感じられない」「身分証明書になるものは他にあるから」「個人情報の漏洩が心配だから」といった回答が多かった。 浅岡企画官は「普及率が低いといわれるが、5年間で2100万枚配布した国が他にあるか考えてほしい。もちろんこの数字に満足しているわけではなく、2023年度中にはほとんどの人がカードを取得することを目指す」と話す。来年3月にはマイナンバーカードを保険証代わりに使えるようになり、普及に弾みをつける考えだ。 また、今年9月からスタートするキャッシュレス決済で買い物やチャージをすれば最大5000円分のポイントが還元される「マイナポイント」も「ショッピングモールなどでアピールすることで、主婦層を取り込みたい」と期待する。 マイナンバーについて強気の発言が目立つ浅岡企画官だが「カードの普及とともに、運用体制の見直しは行わなければならない」と改善の余地があることを認める。今回の10万円給付ではカードの暗唱番号を忘れた人などが自治体の窓口に殺到し、混乱をきたした。自治体職員にも負担がかかり、オンライン申請を休止した自治体も複数ある。 このためデジタル・ガバメント閣僚会議では有識者を加えたワーキングチームを作り、早急に課題を洗い出す考えだ。「マイナンバーカードのパスワード変更などはもっと簡単にできないか、技術動向を見ながら考えたい」と語る。 ●10万円給付で「『初めて我が事と思ってくれている』と実感した」 これまでマイナンバーカードでできたことと言えば、コンビニでの住民票の写しの取得や、確定申告時のe-Tax、本人確認のための身分証替わりなど一部にとどまる。「真に利便性の高いサービスを提供してきたとは言い難い」と指摘するマイナンバーの専門家もいる。 国はきちんとマイナンバー制度について周知してきたのだろうか。浅岡企画官は「どれだけ広報をしても、そういうのは(メディアに)取り上げられないし、『政府が言うと嘘くさい』と言われてしまう。じゃあどうすればいいのか」と吐露する。 ただ「今までは広報をしても皆『ふーん』という感じだったが、今回の10万円給付で、ようやく皆がマイナンバーについて『自分ごと』と捉えてくれた。SNSを見ても、一般の人がマイナンバーとマイナンバーカードの違いや、マイナンバーカードと通知カードの違いなど情報交換しているのを見て、『初めて我が事と思ってくれている』と実感した」と語る。 預貯金口座との紐づけを含め、国民がマイナンバーへの理解を深めるためには「今回の給付のような自分ごとと捉えることができる施策や場面をつくり、マイナンバー制度についてしっかり知ってもらいたい」と前向きに話している。

弁護士ドットコムニュース編集部

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