「最も有名な宇宙の法則」から自分の名を消そうとした科学者の苦悩
「ハッブルの法則」の名称変更が承認された。これからは「ハッブル・ルメートルの法則」となる。では、ルメートルとは何者か? なぜいまに至るまで名前が忘れられてきたのか? そこには根深い「宗教と科学」の葛藤が背景にあった。 続々重版出来、話題の書『科学者はなぜ神を信じるのか』より秘史を紹介する──。
「ハッブルの法則」の名称が変更される!
人類が発見した宇宙についてのさまざまな法則の中で、おそらく最も有名なのが「ハッブルの法則」だろう。 このサイトの読者ならご存じの方も多いと思うが、ひとことでいえばこの法則は、宇宙が膨張していることを示すものである。 夜空に光る星と星の間の距離を正確に観測すると、時間がたつにつれてどんどん距離が大きくなっていく。つまり、お互いに遠ざかっている。そして遠方にある星ほど、遠ざかる速度は大きい。 よく説明に使われるたとえ話は、「星に見立てた点を表面に打った風船をふくらませると、どの2点間の距離も広がっていく」というものだ。宇宙はこの風船のように、膨張を続けているのである。 20世紀前半にこの法則が発見されるまでは、ほとんどの人が当然のように、宇宙は静止していると考えていた。 「宇宙は膨張している」という発見がどれだけ衝撃的だったかは、あの天才アインシュタインですら頑として受け入れようとしなかったことからも想像できる。 しかもハッブルの法則は、さらに重大な意味をもっていた。 宇宙が膨張しているということは、フィルムを逆回しするように時間を戻していけば、宇宙はどんどん収縮していき、やがては小さな点になる。つまり、宇宙のはじまりは極小の粒子であり、それが大爆発を起こして現在の宇宙ができあがったとするビッグバン理論が生まれたのである。 このようにハッブルの法則は、宇宙のあり方についても、はじまりについても、それまでの常識を完全に覆してしまった。 この法則は宇宙論における最も有名な法則であると同時に、最も重要な法則であると言っても過言ではないのである。 従来、この法則の発見者は、その名のとおり、アメリカの天文学者エドウィン・ハッブル(1889~1953)であるとされてきた。ハッブルはロサンゼルス北東のウィルソン山天文台に建造された100インチ望遠鏡で天体観測を続け、1929年、互いに離れる銀河の距離と速度の関係を計算してハッブルの法則を発見した。 この偉大な業績を讃えてNASAはその名を冠したハッブル宇宙望遠鏡を打ち上げ、高校の地学の教科書でもハッブルの法則が紹介されるなど、ハッブルは現在、世界で最もよく知られた天文学者として歴史に記憶されている。 ところが、2018年8月になって、世界の天文学者によって構成されている国際天文学連合(IAU)は、この法則の名称を変更することを総会で提案した。そして10月末までに行われた会員による電子投票の結果、約4000人が投票し、その約8割が賛成したため、変更は承認された。 ハッブルの法則を、「ハッブル・ルメートルの法則」と呼ぶように推奨することが決まったのである。これにより、教科書の表記が変わるなど、これからさまざまな方面でその影響が出てくるものと考えられる。