短い鼻、太古の奇妙なゾウ・ゴンフォテリウムは何食べた?ゾウ進化史新研究
ゾウ進化におけるゴンフォテリウムの歯
ゴンフォテリウムの特徴だが、冒頭に触れたように現在のゾウとはいくつか大きな違いがある。大きな個体で体高は2.5mから3.1m、体重は4トン前後まで成長したようだ。(ちなみにアフリカ象の大きなオスの個体は体高4m、体重は6トンくらいにまで届く)。 注:こちらのサイトにゴンフォテリウムのイメージが多数掲載されている。この一見風変わりな太古のゾウの姿を是非ご覧になっていただきたい()。 ゴンフォテリウムの鼻は非常に短い。まるで赤ん坊のアフリカ象のように見えなくもないが、成体でもモノをつかんだりすることは無理だったはずだ。(進化上、どうしてゾウの鼻は伸びだしたのだろうか? その起源はどのような理由にもとづくのだろうか?) 牙も直線状でそれほど長くはない。しかし口の外へ突き出しているのは一目瞭然だ。しかも上アゴと下アゴ両方から生えているので、全部で4本になる。この一見風変わりな牙は、大地を耕すように掘って、土や泥に埋まった餌(植物)を探すのに役立ったという考えが一般に認められている。 もう少し古い時代のゾウの種は、牙の延長がはっきり分からないケースもある。(どうして現生種の象牙はあれほど長いのだろうか? 今回の趣旨とは少し離れるので、また機会を改めてこうしたテーマをとり上げてみたい。) そしてゴンフォテリウムは、ゾウの進化史においても「ユニークな歯」の形態をもちあわせている。この歯の不思議さを知るために、ここで改めて生きているゾウの口の中を覗いてみる必要がある。もしこうした経験が今までにないという方、または自宅でゾウを飼っていない方は、こちらのサイトで是非チェックしてみていただきたい(一見の価値アリ)。 ―現生のゾウの歯のイメージ: 同じ哺乳類とはいえ我々ヒト(または他のほとんどの哺乳類種)と比べても、現生のゾウ(そしてマンモス等いくつかの絶滅したものを含む)の種は、かなり独特な歯をもちあわせている(注:牙を除いた口の中に収まっている歯をここでは指す)。それぞれ上下左右4つあるアゴの中には、なんと歯は一つずつしかない。そのどれも噛み合わせの表面は平らで非常に大きい。アゴ全体に一つの歯が堂々と場所を独り占めするかのように胡坐(あぐら)をかいている。 ちなみに「一つのアゴ:一個の歯」という組み合わせには、進化上の秘密が隠されている。アゴの内部にはこれから生え変わる永久歯としての複数のものが出番を待ち構えているのだ。そう、ゾウは我々ヒトのように前歯や犬歯、奥歯といった複数の(永久)歯を死ぬまで同時に口の中で使い続けるのではない。一つだけの歯を長い間きちんと使い古し、そして次の新しいものと取り換える ── このユニークなプロセスを手に入れたのだ。 注:65年近く生きた現生のゾウにおいて、歯が「5回」生え変わることが確認されている。2歳の時に最初の歯が顔を見せる。その後乳歯が一度(6歳の時)、そして永久歯が4回(約15年毎)生え変わる。トータルで歯の数は6本の計算になる。 つまり哺乳類の歯の数は、何千といる種の間においてもそれほどの違いはない。しかし、ゾウは哺乳類に運命づけられたこの制約の中、新たな道を探し出したといえる。 最古のゾウの一つ「エリセリウムEritherium」のアゴ化石を見てみると、第一印象としてその歯はとてもゾウのものとは思えない(こちら参照)。小ぶりな歯に複数の隆起がみられ、どことなく我々(霊長類)のモノと似ていなくもない(あくまで現生のゾウのものとの比較という意味において)。 ―最古のゾウの歯のイメージ: そして気になるゴンフォテリウムの歯だが、察しのいい読者の方はもう感づいているかもしれない。現生のゾウのものと最古のゾウのものと比べ、ちょうど「中間」の様相を呈している(こちらのPaleo Directの写真参照)。まだ複数の歯が見られるものの、それ以前の種と比べると歯のトータル数ははっきりと少ないのが分かる。そして歯の形は例の「フラット(平)状」を帯びはじめているのも確かめることができる。 ―ゴンフォテリウムの歯のイメージ: それではこのゴンフォテリウムは、果たして何を食べていたのだろうか? 歯の斬新な進化は、ゾウの何か食性における大きな変化と密接な関わりがあるはずだ。