河瀬直美×深田晃司対談 映画祭の未来に向けて。[前編]
――おふたりの作品が選出された「The Faithful」には、カンヌでこれまで上映されたことのある監督の名前が並んでいます。自ら発掘し、育てた監督に誇りを持っているというのがカンヌらしいですね。 深田 私は一度選出されただけなので、常連ではありませんけどね。 ――「ある視点」部門での審査員賞受賞は、立派なカンヌキャリアです。 深田 カンヌの歴史を見ていくと、興味深いですよね。20世紀半ばにヴェネツィアやカンヌの映画祭が生まれるまでは、アート映画を評価する場がなかった。ハリウッド的なグローバリズムや商業性の高いエンターテインメント作品の中で、埋もれてしまいかねない作家性の強い作品を評価して後押しし、守っていく。カンヌは権威主義とも言われますが、ハリウッドグローバリズムに対抗するための権威でもある。 河瀬 13年にコンペの審査員としても参加したのですが、スティーヴン・スピルバーグ審査員長を含む9人の映画人とパレ(メイン会場)で10日間も映画を観続けるという、すごい体験でした。印象的だったのは、スピルバーグが「カンヌはアカデミーじゃない」と言っていたこと。ロビー活動が始まるから、パーティは禁止。アカデミーはそういうロビー活動の連続なのでしょう。3日に1度くらい審査員が集まって感想を話し合いながら、1作品ずつ丁寧に観ていった。9人いれば9通りの考え方があり、争うことなくディベートする。みんながコミュニケーションを取りながら、自分が純粋にいいと思った作品を推せるようにスピルバーグが導いてくれたし、そのリーダーシップが素晴らしかった。映画人として何を評価するか問われるというか、私自身を試されました。 深田 私は初めてだったこともあり、お上りさんのように浮かれている間に、あっという間に終わったカンヌ体験でした(笑)。映画祭期間中のカンヌには関係者しかいない。タクシーの運転手も「あの映画観た?」って話していたくらい。